研究概要 |
【はじめに】これまで,高気圧酸素(HBO)の繰り返し(1時間/日×5日)が虚血耐性を誘導し,3.5ATA-HBOが最も強い保護効果を有し,神経栄養因子や免疫・炎症関連蛋白(p75^<NTR>,C/EBP_,CD74)が関与する可能性を示唆した.最近,神経栄養因子の下流のp38の関与が示唆され,本研究では蛋白合成阻害作用とp38活性作用をもつアニソマイシン(AM)とp38特異的阻害薬(SB203580,SB)を用い,HBOの虚血耐性効果の修飾について検討した.【方法】ラットの前脳虚血(両側総頸動脈遮断(8分間)+低血圧(平均動脈圧45-50mmHg))モデルを用いた.AM+HBO群では各3.5ATA-HBO施行の1時間前にAM (10mg/kg)を,SB+HBO群ではHBO施行30分前にSB(200_g/kg)を腹腔内に投与した.AM+SB+HBO群ではAMとSBを投与した.C群は平圧処置のみとした.最終のHBO処置から12時間後に前脳虚血を行い,虚血再潅流7日後に組織学的評価を行った.また海馬CA1における虚血再潅流10分後のp38活性を測定した.【結果】海馬CA1生存神経細胞数比は,C群(2.5±5%),HBO群(65±4.7%),AM+HBO群(2.1±2%),AM+SB+HBO群(58±17%)であった. HBO群とAM+HBO群のp75^<NTR>,C/EBP_, CD74蛋白発現量に差はなかった.虚血再潅流10分後の海馬CA1のp38活性はHBO群(33%)ではC群(96%)と比べ有意に低下した.【考察・まとめ】HBOの神経保護効果はAMで抑制されたが,SBでほぼ完全に回復した.また,HBO処置により再潅流10分の海馬CA1のp38が抑制された.神経栄養因子はp38を抑制することから,耐性誘導機序として神経栄養因子や免疫関連蛋白の発現とp38-MAPKの抑制が示唆された.脳血管障害の予防・治療戦略として,高気圧酸素,および神経栄養因子/p38修飾による虚血耐性誘導応用の可能性が示唆された.
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