研究概要 |
再生医療の手段として,近年ヒト胚性幹(ES)細胞や人工多能性(iPS)細胞が注目されている。しかしながら,ES, iPS細胞の増殖・分化制御については,フィーダー細胞や血清添加培地や成分が非公開の添加因子など,様々な培養条件で検討されている為,比較検討が非常に困難である。我々は,この様な問題を解決する為,フィーダー細胞無しで,マウスiPS(miPS)細胞の増殖・分化能を維持可能な無血清培養条件の確立を目指した。理化学研究所バイオリソースセンターcell bankより提供をうけた,胚線維芽細胞由来miPS細胞を用い,フィーダー細胞を用いない無血清培養条件を検討した。未分化マーカーとして,Oct3/4, Nanog遺伝子発現と,アルカリフォスタファーゼ活性について検討した。また,ラミニン処理プレート上で,FGF-2を添加しmiPSの分化能を検討した結果、我々が開発したマウスES細胞用無血清培地ESF7をもとに,マウスiPS細胞の未分化性を継代・維持可能な無血清培養系を確立できた。この培養条件で培養したマウスiPS細胞は未分化マーカーであるOct3/4, Nanogを発現していた。また,miPS細胞はラミニン処理とFGF-2を添加で、形態的に神経細胞特有の突起を形成した。これらの結果から、miPS細胞の増殖能と未分化性を維持可能な無血清培養系を確立したと考える。 上記で決定した無血清培養条件下に,miPS細胞に、nodal, BMP-2, -4, -7, FGF-1, -2, -7, -10を添加し、スミロン・スフェロイドプレートに播種してスフェロイドを形成させ、10日間培養を行い、4%パラフォルムアルデヒドで固定、あるいは、RNAを抽出し、組織学的検討及びDNAマイクロアレイ解析を行った結果、nodal、およびBMP-4により顎顔面の位置情報を示す遺伝子発現を認めた。 未分化な骨髄幹細胞をnodal、あるいはBMP 4,で処理した細胞群を混合し、スミロン・スフェロイドプレートに播種してスフェロイドを形成させ、10日間培養を行い、組織学的検討およびRNAを抽出した。4%パラフォルムアルデヒドで固定したスフェロイドのパラフィン切片を作製し、組織学染色(HE染色、アルシアンブルー・PAS二重染色、アニザリンレッド染色)を行い、誘導される組織を解析した。その結果、アルシアンブルー・PAS二重染色、アニザリンレッド陽性の組織の誘導を認めた。 以上の結果から、我々の開発した無血清培地ESF10培地を用いることによりマウスES細胞のみならず、miPS細胞やヒト間葉系幹細胞を長期間未分化性を維持して培養できることが明らかとなり、臨床応用への可能性が強く期待される。
|