研究概要 |
小胞体ストレスは加齢や感染など、種々の状況においてミスフォールドしたタンパクの蓄積により活性化される細胞性の応答である。歯周炎局所では歯周病原細菌の感染により誘導される炎症反応、および同時に働く組織修復機構の過程では多種多様な分子の産生が亢進していること、そしてその結果過剰な小胞体ストレス応答が生じ、転写因子NF-κBにより制御される炎症関連分子の産生が増強されることが考えられる。これらのことから歯周炎の病態決定因子として小胞体ストレス応答の関与が疑われる。そこで、歯周炎患者25名より歯周外科手術時あるいは抜歯時に歯周炎罹患組織を、その他の患者21名より歯周炎以外の理由による抜歯時に臨床的歯肉炎あるいは臨床的健康歯肉を採取した。得られた歯肉より全RNAを抽出し、real-time PCR法により小胞体ストレス関連分子であるATF4,XBP1,CHOP,SEPS1の遺伝子発現を定量的に解析した。 HSP60,HSP70発現については歯肉バイオプシーを用いて免疫組織化学染色により解析した。また、感染と炎症の小胞体ストレスに及ぼす影響を明らかにする目的でマクロファージを歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisおよびEscherichia coli LPSとIFN-γで刺激した時のATF4,XBP1,CHOP,SEPS1発現を同様に解析した。その結果、歯周炎組織ではすべての小胞体ストレス関連分子の遺伝子およびHSP60タンパク発現が健康/歯肉炎組織と比較して有意に上昇していた。二重染色の結果から、HSP60発現は主としてB細胞に認められた。マクロファージのin vitro刺激においてATF4,SEPS1,CHOPは刺激時間依存的に遺伝子発現が上昇する傾向が認められた。この反応はE.coli LPSにおいてもっとも顕著であり、P.gingivalis LPSではほとんど認められず、IFN-γではE.coli LPSとほぼ同程度に遺伝子発現を上昇させる作用が認められた。これらの結果より、歯周炎組織では小胞体ストレス応答が生じていること、その応答は細菌の直接作用ではなく、むしろ局所の炎症反応で産生された炎症性サイトカインがその引き金となっていることが推測された。さらにUPRを介したNF-κBの活性化経路が存在することより、歯周炎の病態形成においてB細胞が重要な役割を演じていると考えられた。
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