研究概要 |
本研究の目的は,非言語的なコミュニケーションの1つである表情が,生体に及ぼす影響について神経生理学的な側面から解明することである。医療従事者はマスクを着用することが多いが,マスクは表情の大部分を隠してしまうことから,今年度はマスク着用の有無やマスクに対する慣れが生体にどのような影響を及ぼすかについて検討した。対象は健康な女子学生16名で,マスクを見慣れている群8名(大学4年生),マスクを見慣れていない群8名(大学1年生)の2群に分けた。視覚刺激として,表情画像4枚(面識のない人物の笑顔(A),無表情(B),笑顔でマスク着用(C),無表情でマスク着用(D))および背景画像1枚の計5枚をランダムに2分ずつ呈示した時の生体反応を,生理的指標として自律神経活動(心拍数,R-R間隔),心理的指標として主観的間隔尺度(VAS法)とSD法を用いて測定した。HR(心拍数)およびHF(副交感神経活動)では4種類の画像間および学年間では有意差はなかった。SD法では,SD1(不快-快)では,AB,AD,BC,CD間で有意差が認められた。また,SD2(緊張-リラックス)では,AC間の笑顔でのマスクの有無で有意差が認められた。心理的指標(SD法)では,A>C>B>Dの順にプラスの評価の数値が大きくなる傾向を示した。このことは,心理的にはマスクの有無よりも表情の差が与える影響の方が大きいということを意味している。つまり,マスクで顔の下半分を隠されていても残りの目や眉などから表情の差を認識しているということである。また,同じ表情ではマスクをしている方の評価が低かったことから,目元から表情を認識・推測はできるが,完全に表情を確認できていないことが不安感や緊張感などを生み出していると考えられる。
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