研究概要 |
本研究では,われわれの知覚世界を安定化するメカニズムを行動実験および機能的磁気共鳴画像法(fMRI)と経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いた認知神経科学実験により調べた.知覚世界を安定化するメカニズムとしては,運動にともなう視認性低下や注意選択にともなう周辺抑制が挙げられる.オブジェクト置き換えマスキング(OSM : Di Lollo, Enns, & Rensink, 2000)は,ターゲット-マスク間のオブジェクト連続性知覚にともなう情報更新や残存マスクが駆動する周辺抑制野が関与すると想定されることから,研究対象として選定した.行動実験による検討の結果,OSMは主観的輪郭図形をマスクとした場合にも生じることから高次オブジェクトレベルの干渉のみでも生じうること,ターゲットよりも周辺側のマスクが中心側のマスクよりも大きなOSMを生じるという非対称性はターゲットとマスクの中心-周辺関係ではなく注意シフトの方向に依存することが明らかとなった.また,知覚世界の安定化には,現行課題について関連刺激を選択し,無関連刺激を抑制することも重要な役割を果たしている.この選択的注意メカニズムを解明すべく,fMRIを用いてトップダウンの注意制御の脳内機構について,TMSを用いて注意の瞬き(AB)の脳内機構について検討した.その結果,トップダウンの注意制御は右側頭頂間溝が後頭視覚野を効率的に変調して活動を増大させることで実現していること,ABにおいては頭頂間溝(IPS)はそれぞれのターゲットに対する注意構えに,下頭頂小葉(IPL)は1つ目のターゲットから2つ目のターゲットへの注意の解放と再定位に関わることが示唆された.
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