研究概要 |
成体における新生神経回路を可視化する目的で、分裂細胞にのみ感染するレトロウイルスを用い、新しくシナプス結合した神経回路でのみタンパクを発現するシステムを構築した。続いて、新生視細胞が形成した神経回路を特異的に可視化するために、視細胞に特異的なCrx, Nrl, Rhodopsinのプロモーターを用いたウイルスベクターを作成した。 さらに、新生視細胞の機能および回路形成を電気生理学的に解析する目的で、多電極細胞外記録(multi-electrode array)を用いた評価系を確立した。暗順応させた網膜を急性単離し、神経節細胞層が電極に接するように静置し、光刺激を行ったところ、in vivoのelectroretinoeraphy (ERG)に類似した応答が得られた。これらの応答は、視細胞に由来するa-wave、視細胞とシナプス結合する双極細胞に由来するb-waveであることを明らかにした。この手法により網膜の発生過程における光応答の変化、および変性網膜の機能変化を解析することができた。 網膜細胞の分化制御機構を解明する目的で、胚性幹細胞(ES細胞)および誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)を用いin vitroでの網膜分化を検討した。その結果、WntシグナルおよびNodalシグナルを抑制する低分子化合物を用いた新しい分化誘導系の確立に成功した。加えて、4因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)あるいは3因子(Oct3/4, Sox2, Klf4)を用いて作製した複数のiPS細胞株の分化能を比較した結果、検討した全ての細胞株において神経分化は認められたが、網膜色素上皮には分化しない細胞株が認められた。iPS細胞から網膜細胞への誘導には、初期化因子の組み合わせよりも、iPS細胞の樹立過程におけるコロニーの選択および多能性の検証が重要であると考えられた。
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