研究概要 |
腫瘍内に存在する少量の腫瘍幹細胞は腫瘍の発生・増殖・転移・再発に寄与する責任細胞と考えられ、その性状解明が求められている。脳腫瘍幹細胞の維持機構を解明するため、本年度は脳腫瘍幹細胞濃縮マーカーCD133からアプローチした基礎研究を遂行し、以下のような成果を上げた。(1)ヒト神経膠腫検体を用いた解析からCD133の発現量と悪性度との間に正相関が確認されたため、CD133遺伝子を導入した不死化ヒトアストロサイトNHA-TSC細胞を樹立した。しかしながら、顕著な形質変化は観察されず、CD133分子の腫瘍化に対する直接的な関与は示唆されなかった。(2)そこでCD133遺伝子の発現調節機構が腫瘍幹細胞の本質を規定していると考え、ヒトCD133遺伝子のプロモーター解析を行った。プロモーター領域P1からP5を単離後、CD133発現細胞株を用いた解析から、癌遺伝子ETSファミリーの活性化がP5を介するCD133の転写活性および腫瘍幹細胞の維持に必要であることを見出した(投稿準備中)。(3)さらにCpG islandを含むP1, P2およびP3領域のプロモーター活性がメチル化処理によって消失すること、またCD133の発現が脱メチル化剤5-Azaおよびヒストン脱アセチル化酵素阻害剤VPA, TSAの処理によって上昇することを明らかにした。さらに、ヒト神経膠芽腫検体を用いたbisulifte sequence解析から、P1の一部およびP2領域における低メチル化状態がCD133の発現と正相関を示すことを明らかにした(Cell Res. 200818 : 1037-46)。以上の結果は、ETS因子の活性化およびDNAの低メチル化がCD133の発現調節と並行して脳腫瘍幹細胞の性質を制御している可能性を示唆しており、脳腫瘍幹細胞特異的な治療開発を目指した分子基盤構築への端緒となったと考える。
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