研究概要 |
本研究は、コンピュータ上で人の上下歯列の咬合を再現し、咬合によって生じる顎関節への3次元的な負荷を実時間で解析して定量化することを目的としている。 平成20年度には、実時間で咬合接触部位にかかる力や方向を得るため、仮想仕事の原理を用いた咬合接触の高速な近似モデルを提案し、モデル化による近似から生じる誤差について検討した。 本咬合解析では、歯列を剛体として扱い、咬合接触はある一定の量(200μm)が対合歯に干渉した状態であると仮定した。これは実際の咬合時に歯根膜の変形を主とした歯の正常な動揺を参考に設定した。咬合接触部位は上下の歯列をZ-mapに射影し、200μm分干渉した部分とした。連続した咬合接触部位を一つの咬合接触領域としてラベリングすることで複数の咬合接触領域を得た。個々の咬合接触領域にかかる力は、仮想仕事の原理を応用した提案する近似モデルによって推定した。咬合接触を径を変えた同径の球の接触として考え、提案した近似モデルによって生じる誤差について検討をおこなった。接触する球の直径を咬合接触面の曲率を考慮して4,6,8,10mmとし、接触角を0〜58deg. まで変化させた時の理論値からの誤差を計測した。誤差は反力の大きさで最大22%(直径10mm@35deg.)、角度では6.7deg. (直径4mm@58deg.)未満であることを確認した。 従来では、咬合状態を患者の外で確認するために、咬合器と呼ばれる機械式の機器に装着して咬合を再現していた。機械式の咬合器では歯科医師が直接手に持って咬合状態を再現できる利点がある一方、歯列の接触面を直接観察できないため、過渡的な咬合状態を観察することはできなかった。コンピュータ上での咬合解析では、解析に必要となる歯列デジタルモデルは最低でも100μm程度の解像度が必要で、従来のFEM等の手法では膨大な計算が必要であり実用的ではなかった。
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