研究概要 |
廃用性筋委縮は,固定や臥床によって生じ,最も理学療法が対象とすることの多い二次性の障害である.廃用性筋委縮に対しては,運動療法が効果的であるものの,その効果を得るためにはある程度の強度が必要である.しかしながら,廃用性症候群を呈した患者にとって,高強度の運動を行うのは困難である.また,神経筋電気刺激療法も,筋を強化するには苦痛を与える強度が必要であるといわれている.先行研究では,温熱療法と運動療法の併用によって,より効果的に筋委縮の進行を抑制できたものの,その作用機序については不明なままであった.そこで本研究では,廃用性筋委縮の進行抑制に対して,短時間の温熱負荷とトレッドミル走行または神経筋電気刺激の併用効果を確認し,その作用機序を検証することを目的とした.対象としてWistar系ラットを用いた.足関節を最大底屈位に固定し1日1度,固定を除去してそれぞれの介入を行った.ラットはコントロール群,固定群,トレッドミル走行群,温熱トレッドミル走行群,神経筋電気刺激群,温熱神経筋電気刺激群の6群に分けられ,介入を行った.結果,トレッドミル走行の前に温熱負荷を行った群のみが,廃用性筋委縮の進行を抑制できた.その作用機序として,タンパク質新生・修復を促すHeatshockProtein72(HSP72)の発現が促進され,分解を促すプロテインリガーゼE3の発現が抑制されていることが確認できた.また,その他の群では,HSP72の発現が認められたもののプロテインリガーゼE3の発現が抑制できないなど,筋委縮の進行抑制には,タンパク質新生・修復系と,分解系のバランスを保つための介入が必要であることが確認できた.この結果は,廃用性筋委縮を呈している患者や高齢者の運動療法を行うにあたって,温熱療法を前処置として行うことで,運動療法の効果を引き出すことができるということが示唆された.
|