本研究は、従来言語学(特に生成文法理論)的観点に依拠して説明されてきた言語理解における現象を、言語とは独立した(と、少なくとも生成文法理論では考えられている)一般的認知機能である「抑制機能」との関連性から説明を与えることを目的としている。抑制機能とは、課題の遂行(例えば、文を理解することなど)に無関係ないしは支障をきたす情報の抑制を司る脳機能である。本年度では、まず、そのような抑制機能がガーデンパス現象からのリカバリーの際に利用されるかどうかを検証することを目的とし、単純な(すなわち、ガーデンパス現象からのリカバリーの際に一時的構造曖昧性が生じない)ガーデンパス文を用いた被験者ペース読文実験をデザインし、各被験者のガーデンパス量と、抑制機能の個人差との間に強い相関関係があるかどうかを検証するための研究計画を立案した。それに伴い、個人の抑制機能の相対的高低を実証するための実験プログラム、具体的にはFlanker課題およびSimon課題の実験プログラムを開発した。もしガーデンパス現象からのリカバリーに抑制機能が重要な役割を果たしているのであれば、抑制機能の能力が高い被験者は、そうでない被験者に比べて、ガーデンパス量が小さいと予測される。本研究ではこの点を明らかにした上で言語理解における抑制機能の役割についてさらに詳しく検討していく。また、本年度は関連分野の様々な学会あるいはワークショップに参加し、興味を共有する研究者達と議論を交わした。特に、9月に開催された第72回日本心理学会では、「言語理解へのERPアプローチ」というワークショップで本研究ならびに先行研究の成果を公表し、言語学者および心理学者に本研究が如何に言語理解理論に貢献しうるものであるかを訴え、今後の展望などについて議論した。
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