研究概要 |
本研究では、高不確実性下におけるデニム・ジーンズ産地型集積を適応システムの集積群とみなすことによって、いかに優れたプロトタイプ創出が達成されるのかを考察した。これまで柔軟な専門化を鍵概念として、中小の専門企業群の水平分業ネットワークが産地型集積の高いプロトタイプ創出能力を支えてきたことが、様々な事例研究を通じて示されてきた(Piore and Sable,1984;関,1993)。ただし日本的なケイレツ型システムはその瓦解以降、水平分業ネットワークに完全に代替されることはなかった。そこで本研究は金井(1994)の分析視座を参考に、不確実な状況下では企業家たちがそれぞれに固有の適応戦略を駆使すること、その結果産地型集積を適応システムの集積群とみなせることを措定し、2つの対照的な適応システムの理念型としてI型・L型システムを定式化し、現実の適応システムをそれらの混合形態と見なすことにした。事例研究では、そこで取り上げた適応システムの長所・短所を各システムの基本的な組織化原理、生産管理上の基幹技術、純粋なI型・L型と比較した場合の長所・短所を整理して述べた。とくに長所については、個々の経営者にとっての利点と産地型集積にとっての利点とを区別した。また短所について、産地外部の親企業にその適応システムの命運を握られることの是非、および垂直統合型の生産ライン構築のハードルが依然として高いことなどは、深刻な問題としてさらなる議論を要すると考えられる。
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