研究概要 |
トリプトファンの代謝産物キヌレン酸は脳内でニコチン作動性α7アセチルコリン受容体アゴニストとして作用することにより,神経伝達物質ドーパミン放出を抑制する.しかし,どのような生理的状態がキヌレン酸産生に影響をおよぼすのかについては明らかではない.本研究では,高血糖やホルモンなどの因子がキヌレン酸産生とドーパミン機能におよぼす影響について検討した.I型糖尿病モデルラット,チロキシン投与ラット,エタノール摂取ラットについて検討した結果,ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病モデルラットにおいて,脳内キヌレン酸濃度の上昇とドーパミン代謝回転抑制が認められた.高リシン食の摂取によってキヌレン酸産生増大を抑制できることから,ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病モデルラットに1~3%リシン添加食を投与したところ,脳中キヌレン酸濃度はリシン摂取量依存的に低下し,ドーパミン代謝回転はリシン摂取量依存的に増大した.キヌレン酸前駆体であるキヌレニン濃度には変動が認められなかったことから,リシン代謝産物αアミノアジピン酸の産生増大がキヌレニンからキヌレン酸への生合成を抑制したことが示唆された.高リシン食によるキヌレン酸濃度上昇抑制とドーパミン放出増加を示す結果は,食事を介してキヌレン酸産生を調節することによってドーパミン放出を正常な範囲に調整できる可能性を示すものである.
|