研究課題/領域番号 |
20790213
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研究種目 |
若手研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
薬理学一般
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
濱邊 和歌子 神戸学院大学, 薬学部, 助教 (30382328)
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研究期間 (年度) |
2008 – 2009
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研究課題ステータス |
完了 (2009年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2009年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2008年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 疼痛 / 脳卒中 / 糖尿病 / 脳虚血ストレス / インスリン抵抗性 / 糖代謝改善薬 / 臓器間連関 / 脳卒中後痛 / 一次知覚神経 / 痛覚過敏 / 虚血後高血糖 / 糖代謝異常 / 一過性脳虚血 / インスリン感受性 / アディポネクチン |
研究概要 |
脳血管疾患ではその障害部位や程度に依存した麻痺や学習記憶障害などの合併症の発症が患者のQOLを低下させる。中でも「中枢性疼痛」はその有効な治療薬が少なく難治性であることから、新たな発症機序の解明と治療戦略の開発が望まれている。以前より研究代表者らは、脳血管障害による神経障害の発現機序において脳虚血ストレス負荷後の糖代謝異常がその引き金の一因となることを示してきた。よく知られるように、高血糖状態は神経機能に障害を与え疼痛を誘発することが知られる。そこで本研究では、脳虚血ストレス誘発性糖代謝異常の発現機序解明に取り組むとともに、それに引き続いて生じる可能性のある中枢性疼痛に着目し、脳卒中モデルマウスにおける一次知覚神経の感受性変容や痛覚閾値の変容について検討した。 動物は5週齢のddY系雄性マウスを用い、脳卒中モデルは2時間の左中大脳動脈閉塞法(MCAO)により作成した。梗塞巣形成はTTC染色法、行動障害はneurological deficit score (NDS)を用いて評価した。インスリン負荷試験、グルコース負荷試験を用いて糖代謝異常の発現について解析し、血中インスリン濃度、血中アディポネクチン濃度はELISA法により測定した。さらに、脳、肝臓や骨格筋におけるAMPKの活性変容はwestern blot法により解析した。マウス後肢における知覚閾値の測定には、neurometerを、痛覚閾値の測定には、von Frey filamentを用いた。 MCAO 1および3日後において、偽手術(sham)群と比較して、左脳領域に明らかな梗塞巣の形成が確認され、有意な行動障害の発現も観察された。それに先行して、一過性の有意な空腹時血糖値の上昇が認められ、同時に糖負荷後血糖値の上昇、血中アディポネクチン濃度の低下、インスリン感受性の低下が観察された。このとき、肝臓におけるAMPKは何ら変化を示さなかった。一方、AMPKの活性化剤による肝臓AMPKの活性化条件下では、虚血ストレス誘発性の糖代謝異常の発現は完全に消失し、同時に神経障害の発現も有意に抑制された。 一次知覚神経の応答性解析では、AδおよびAβ線維の刺激に対する左右両側の後肢における知覚閾値に、MCAO前と比較してMCAO 3日後で有意な低下が観察された。その一方で、C線維応答にはなんら変化は認められなかった。痛覚閾値の測定では、MCAO 1日後において虚血側である左後肢に痛覚閾値の低下が観察され、3日後では有意であった。一方、虚血反対側である右後肢では有意な差は観察されなかった。またsham群では、両側ともに痛覚閾値に変化は認められなかった。さらに、MCAO 3日後に認められた左後肢における痛覚閾値の低下は、morphine投与により抑制された。 以上の知見より、本MCAOモデルにおいて発現する糖代謝異常には、肝臓におけるAMPKの変動は関与しないことが示唆された。興味深いことに、さらなる肝臓AMPKの活性化は虚血ストレス誘発性糖代謝異常の発現を有意に抑制できることも明らかとなった。この糖代謝異常の発現と同時に、虚血ストレス負荷により、一次知覚神経応答において両側性の過敏反応が観察された。この応答変化は無随C線維よりもむしろ、有髄A線維の感受性増大に起因するものであると推測された。さらに、左後肢では機械的刺激に対する痛覚過敏反応が観察され、このモデル動物ではオピオイドに対する感受性が保たれていることが示唆された。
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