研究概要 |
ヒトの全身性エリテマトーデス(SLE)にみられる腎炎ではメサンギウム細胞の増殖や線維性変化、また糸球体上皮細胞を架橋するスリット膜構成蛋白の一つであるnephrinの脱落などの変化が報告されている。我々は糖尿病腎症における血管新生抑制因子エンドスタチンによる治療効果について報告した。ループス腎炎においても既報の糖尿病腎症モデルを参照すると、エンドスタチンペプチド投与により(1)VEGF発現抑制による血管透過性亢進の抑制および単球マクロファージなどの炎症細胞浸潤抑制、(2)TGF-β1などを介したメサンギウムの基質増加の抑制と糸球体硬化の抑制、(3)炎症性サイトカインの誘導抑制、(4)nephrin発現回復効果を介した蛋白尿の軽減などが期待される。平成20年度は、まず糸球体内の変化を蛋白レベルで確認するために、予備実験として正常マウス培養メサンギウム細胞および糸球体上皮細胞における炎症性サイトカインの誘導(TGF-β, VEGF etc.)、nephrin蛋白の発現変化をimmunoblotにて評価した!TGF-β1, VEGFの産生は両細胞において発現はわずかで、既報の高糖濃度下での発現に比しても1/2程度であった。正常糸球体上皮細胞におけるnephrin発現はimmunoblotでは発現を同定できず、培養上清でのELISAなど同定の方法について再考の余地があると思われた。今後はサイトカイン(IL-6, TNF-αなど)刺激下でのTGF-β, VEGF, nephrinの発現変化、血管新生抑制因子エンドスタチンの培養細胞にもたらす変化について検討したい。またマウスモデルを使用し、治療開始後の腎機能や蛋白尿にどのような影響が得られるのかを検討したいと考えている。エンドスタチンの固形腫瘍以外の治療効果を検討した報告は極めて少なく、そのような意味で血管新生に着目した腎炎治療は興味深いと思われる。
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