研究概要 |
超高齢社会を迎える現状の中で、加齢に伴う認知機能低下や認知症の病態解明は重要な課題である。本研究では、加齢、認知症の背景にある多様な生物学的基盤の解明を目的としている。 当該年度の研究成果 : 健常若年者、高齢者およびアルツハイマー型認知症患者を対象に脳波解析を行った。脳波解析には多時間軸(複数の周波数帯域)での脳波の複雑性の定量化を可能にする新しい非線形解析法"マルチスケールエントロピー解析"を用いた。加齢に関する検討においては、健常若年者と健常高齢者の光刺激に対する脳波活動の反応性を検討した。結果、若年者では光刺激に対して複雑性が上昇(非線系性の惹起)するのに対し、高齢者では刺激に対する反応性が乏しいことを明らかにした(Takahashi, et.al., 2009)。認知症に関する検討においては、健常高齢者とアルツハイマー認知症を対象に安静閉眼時における脳波活動と認知機能との関連性について検討した。アルツハイマー型認知症では、健常高齢者に比べて低い周波数帯域における複雑性が低く、一方高い周波数帯域における複雑性は高いことが明らかとなった。さらにアルツハイマー型認知症における高い周波数帯域での複雑性の高さは、認知機能の低さと関連することを明らかにした(Takahashi et.al., submitted)。 マルチスケールエントロピーを用いた脳波解析は、加齢や認知症の生理学的背景を把握する上で重要な役割を果たすことが明らかとなったが、その適用は未だ希少であり、加齢に関する研究では世界で最初の報告である。今後はさらにMRIや心血管機能との関連性などを交えて研究を進める予定である。
|