研究概要 |
【背景】心臓手術後には多少なりとも心不全を来す。成人でも高い頻度で発生するが小児の心臓術後でも同様に認められ, その程度は重篤である。心不全を来す原因は様々であるが, 下垂体から分泌されるバゾプレシンの低下や副腎不全などの関与も示唆されている。しかし小児においてこれらを下垂体機能不全ととらえた報告はなく, 下垂体機能が術後経過とどう関与するかについては現時点で全く分かっていない。もし, 仮に心臓手術後の心不全の原因に下垂体機能不全が関与しており, 予防的にホルモン補充療法などをおこなうことで小児患者の予後を改善できるとしたら, 小児心臓術後管理は大きく革新することとなる。【方法】人工心肺を使用する小児心臓手術の際に, 下垂体ホルモンすなわち, 抗利尿ホルモン(ADH), 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH), 甲状腺刺激ホルモン(TSH), 成長ホルモン(GH)の4項目を, 手術前, 手術終了後, 術翌日の3点で採血により測定し, 術後経過との関与を調査する。 【結果】期間中に19症例で測定できた。成長ホルモンおよび甲状腺刺激ホルモンは同様の経過をたどった。すなわち, 術前は適切に分泌されていたものが, 人工心肺を使用した心臓術後には著明に分泌が抑制され, 翌日はやや改善したが, 術前には回復していない。GH ; 術前, 術後, 翌日=39.7, 2.0, 5.6ng/mlで, P<0.0001と有意差有り。TSH ; 術前, 術後, 翌日=5.4, 1.1, 2.9ng/ml, P=0.0002。これに対して, ACTHおよびADHでは逆に, 平均から見ると術前に比較して術後に上昇し, 翌日に低下する経過をとった。ところが, 特に術後の値は標準偏差が非常に大きくばらついており, ACTHおよびADHの変化は統計学的には有意な差は認めなかった。ACTH ; 術前, 術後, 翌日=33.1, 65.8, 12.7pg/ml, P=0.118。ADH ; 術前, 術後, 翌日=46.4, 120.9, 37.1pg/ml, P=0.090。今回の19症例では術後に特に大きな問題を呈した症例はなく, ホルモンの数値と術後経過の関与に関しては明らかな関連は認められなかった。症例数を増やし, 術後経過が思わしくない症例での測定を含めての検討が不可欠と考える。
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