研究概要 |
【目的】皮下結合組織には神経細胞、筋細胞、骨細胞、軟骨細胞など様々な細胞に分化する多能性幹細胞が存在する。しかし、線維芽細胞が血管内皮細胞に分化するという報告は、これまでほとんどなされていない。したがって、線維芽細胞が血管内皮細胞に分化するメカニズムや生物学的意義も不明である。そこで本研究では線維芽細胞が血管内皮細胞へと分化する際の誘導物質の検索と、その誘導メカニズムを解析することを目的とした。【方法】Tie2-GFPマウスの角膜を採取し、組織片から角膜実質に存在する線維芽細胞を分離・培養した。これとは別にマウスの腫瘍細胞株であるLLCとsarcoma細胞をDMEM/F12(1 : 1, serum free)にて培養し、培養上清を調製した。また、硝酸銀処理により血管新生を誘導したラット角膜をホモジナイズし、血管新生組織由来の組織抽出液として調製した。Tie2-GFP線維芽細胞の培養液中にこれらの培養上清や組織抽出液を添加し、GFPと血管内皮細胞特異的マーカーの発現を蛍光顕微鏡にて解析した。【結果】腫瘍細胞株LLC、sarcomaの培養上清(培養時間24h、48h、72h、96h)を添加した場合、いずれの培養上清によっても角膜線維芽細胞におけるGFP発現量に変化は認められなかった。また、これらの腫瘍細胞株と線維芽細胞の共培養によってもGFPの発現は変化しなかった。一方、血管新生組織由来の組織抽出液を添加した場合添加後24時間でGFPが発現し、これは72時間後まで継続することが確認された。血管内皮マーカーのTie1、Tie2、PECAM1、CD34の免疫染色では、いずれの場合も発現を確認できなかった。【考察】培養上清や共培養と、組織抽出液とでは異なる結果が得られた。これらは両者とも血管新生を誘導する活性があることが知られており、Tie2-GFP線維芽細胞におけるGFPの発現を誘導すると予想された。しかし、組織抽出液でのみGFPの発現が誘導された。腫瘍細胞株は均一の細胞集団からなるのに対して、組織抽出液は様々な細胞集団由来の因子が多数含まれる。今回の結果より、このような単一の細胞種は線維芽細胞を血管内皮には誘導せず、in vivoにおける複雑で多様な要因が関与している可能性が示唆された。
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