研究概要 |
本研究では,グラフで表される二項関係が動的に変化する状況で,その変動を時系列データから推定する問題に注目した.工学的な意義に加え,次年度に感覚・知覚情報処理の計算論的モデル構築を行うための基礎となることを意図した.計画では離散マルコフ確率場(MRF)の構造変動を扱う予定であったが,比較的難しい問題であったため,以下の2つの問題に分割して取り扱った. 1. 離散MRFの一種であるボルツマンマシンの簡便なパラメータ推定法を提案した.離散MRFの推定は通常,面倒かつ高コストな反復計算を伴い,実用上の問題となっている.本研究では,比較的低次元かつ十分なサンプルが得られる場合に,この推定を最小二乗法の枠組みに帰着させることで閉形式の解が得られ,パラメータ推定を簡便に行えることを示した.推定性能や計算量に関する厳密な評価は今後の課題であるが,構造変動や多階層モデルなどの効率的な推定手法につながる可能性があり,意義は大きい. 2. ノイズが加わった二項関係データの時系列から,背後の関係構造の滑らかな変動を推定する手法を提案した.データに基づき二項関係を推定する問題はリンク予測と呼ばれ,近年注目されている問題であるが,グラフ構造が時間変化する問題はこれまであまり扱われていなかった.我々は,指数型分布族に基づく確率的なモデリングに行列因子化のアイデアを取り入れ,グラフ構造の変動を低自由度の空間で捉える手法を開発した.我々の手法は,電子メールによるコミュニケーションなど,動的かつ時変な関係構造を確率的なデータから推定する問題に応用可能であり,その基礎技術として重要である.
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