研究課題
若手研究(スタートアップ)
放射線治療では、照射休止期の放射線傷害からの回復を利用し、正常細胞への放射線被ばく影響を軽減している。このため、一般的な放射線治療は、分割照射を用い、毎日2Gyの放射線を約1月間にわたり照射するスケジュールからなっている。放射線治療においては腫瘍細胞の放射線耐性、がんの再発は解決すべき難問であり、より有効な放射線療法を確立するには、放射線耐性の分子機構を解明することが必須である。本研究では放射線耐性の獲得に必要な遺伝子の同定を目的とし、放射線分割照射の放射線応答の解析を行なった。我々はヒト肝がん細胞株HepG2に0.5GyのX線を12時間おきに一月間照射し、長期分割放射線被ばく株を作製した。これまでの解析から長期分割放射線被ばく株では、DNA合成期(S期)への進行を司るサイクリン依存性リン酸化酵素(CDK)の補酵素サイクリンD1が過剰発現し、CDKを活性化することを明らかにした。サイクリンD1の分解はグリコーゲン合成酵素リン酸化酵素-3β(GSK-3β)により制御されている。しかし、長期分割放射線被ばく株では恒常的にGSK-3βが不活性化され、分解が抑制されていることで、サイクリンD1が過剰発現している。長期放射線被ばく株ではCDKが活性化していることから、10Gyの急性照射後、CDKの抑制が観察されず、細胞がS期へ進入する。このことから、細胞周期チェックポイント機構が正常に機能しないことが示唆される。また、長期放射線被ばく株は2Gyの放射線に対し抵抗性を示し、それがサイクリンD1の過剰発現に起因することを明らかにした。以上の結果より、サイクリンD1を分子標的し、長期分割照射によるサイクリンD1の過剰発現を抑制することで、腫瘍細胞の放射線耐性の獲得を抑えたより有効な放射線療法の確立が期待される.
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Journal of Molecular Biology 375
ページ: 1152-1164
Proteome Research 7
ページ: 803-808