研究概要 |
低原子価コバルト錯体触媒を用いた新形式変換反応の開発において、炭素-炭素結合のカップリング反応に焦点を絞り研究を行っていた。その研究過程においてパラジウム錯体触媒を用いた新しい変換反応を見出した。すなわちパラジウム触媒存在下、酢酸アリル類とアリールボロン酸とのアリル-アリールカップリング反応が高位置選択的に進行した。 辻-トロストカップリング反応に代表される(π-アリル)金属中間体を経由するアリル位置換反応は、極めて有用な炭素-炭素結合形成反応である。しかしながら、(π-アリル)金属中間体に対する求核剤の攻撃が位置選択的でないために、非対称な内部アリル系基質を用いた場合、生成物の位置選択性が問題となる。今回の見出された反応は、パラジウム触媒存在下で酢酸アリル類とアリールボロン酸を用いることにより完全なγ選択性で反応が進行する新形式のアリル位置換反応である。 触媒量の酢酸パラジウム(10mol%)、1, 10-フェナントロリン(12mol%)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(10mol%)存在下、酢酸アリル(0.5mmol)に対して1.5等量のフェニルボロン酸を1, 2-ジクロロエタン(1.5mL)溶媒中、60℃で作用させたところ、完全なγ位選択性およびE選択性を伴って反応が進行し、対応するアリル置換ベンゼン誘導体が良い収率で得られた。また原料に光学活性酢酸アリルを用いることにより、本カップリング反応は脱離基と求核剤が1, 3-synの関係で立体特異的に進行し、ベンジル位に不斉中心を有するアリルーアリールカップリング体を得ることに成功した。
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