研究概要 |
われわれは潜在型TGF-β1活性化の機序を解析するために潜在型TGF-β1を変異させLTBPと結合を不可能にしたマウス(変異型マウス)を作成し、生後4週より肺炎、心筋炎、大腸炎の他、生後8週より胃癌、直腸癌、肛門癌を自然発症することを発見し報告した。この変異型マウスにおいて、血清中潜在型TGF-β1量は野生型と比べ差を認めなかったが、活性型TGF-β1量は有意に低下することがわかった。また、変異型マウスの胃および直腸粘膜上皮は野生型に比べ過形成となっていた。そこで胃および直腸における粘膜上皮の増殖をKi67染色で評価したところ、胃、直腸ともに変異型マウスにおいて腸管粘膜のKi67染色の亢進を認めた。また、c-Myc,リン酸化Smad2,リン酸化Stat3,リン酸化c-Met,β-Cateninの発現を免疫組織染色法にて評価したところ、胃においては変異型マウスで胃粘膜におけるc-Myc、リン酸化Smad2染色の低下を認め、直腸においては変異型マウスでリン酸化Stat3染色の亢進を認めた。レーザーマイクロダイセクション法により変異型マウスの腫瘍組織の腫瘍細胞からDNAを抽出し、p53遺伝子変異の検索をダイレクトシークエンス法で行ったが、5例中5例ともp53遺伝子は野生型であり、癌化におけるp53遺伝子の関与は否定的であった。TGF-β1の活性化の機序の解明として、マウス血清にshear stressをかけて潜在型TGF-β1の活性化を評価したところ、野生型マウスの血清ではTGF-β1の活性化が生じたが、変異型マウスでは活性化が生じないことがわかり、変異型マウス組織でのshear stressによるTGF-β1の活性化の低下が、TGF-βシグナルの低下を来たし、胃および直腸粘膜上皮の過形成、増殖の亢進を来たし癌化に関与することが示唆された。
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