本邦産タデ科ギシギシ属ギシギシ亜属植物について北海道・富山県・京都府・香川県・愛媛県・徳島県で採集活動を行い、比較形態学ならびに分類学的研究を行った。 アレチギシギシ、エゾノギシギシ、ギシギシ、キブネダイオウ、コガネギシギシ、ナガバギシギシ、ノダイオウ、ヒョウタンギシギシ、それにマダイオウの9種における体細胞染色体数は、いずれも氷見(1999)による本邦産の報告と一致した。それらの個体は葉と内花被片の形態について『新日本植物誌』の検索表のとおりに区別できることが分かった。ところで、絶滅が危惧されるノダイオウとマダイオウの2種について、富山県全域で採集活動を行い、その分布状況を調べた。その結果、マダイオウは富山県全域に、ノダイオウは県西部を中心に分布することが明らかとなった。 ギシギシ亜属植物は自然雑種が多いことで知られている。今回の研究過程で、トガマダイオウ、ノハラダイオウ、ギシギシモドキ、ミヤコダイオウ、ナガバギシギシ×ノダイオウ、アレチギシギシ×エゾノギシギシ、アレチギシギシ×ナガバギシギシの7自然雑種に加え、未発表分類群と推定される個体(ノダイォウ×ギシギシ、ギシギシ×ナガバギシギシ)を得た。これらの体細胞染色体数を調べたところ、ほとんどの個体が両親種の中間数を示したが、一部に異数体が見つかった。異数体の出現は自然雑種にも後代が出現する可能性を示唆している。発見された自然雑種のなかで、アレチギシギシ×エゾノギシギシおよびアレチギシギシ×ナガバギシギシは本邦初の発見となる。2倍体のアレチギシギシを片親とした自然雑種は、ゲノム分析に用いられる重要な個体である。ところで、自然雑種の果実について果実の形態を比較したところ、歯牙の数、内花被片基部の形、それに個体内の果実間の大きさのばらつきの3点が両親種と大きく異なることが判明した。これらの要素が自然雑種同定上の鍵となるものである。
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