研究概要 |
【研究の目的】北海道東部沿岸地域の冬季は,塩化物を多く含んだ凍結防止剤や海霧に晒される塩害環境と昼夜間における寒暖の差により凍結融解が繰り返される凍害環境が複合化し,鉄鋼構造物にとって極めて厳しい環境となる.オーステナイト系ステンレス鋼に見られる応力腐食割れに関する研究が精力的に行われているが,塩害と凍害の複合環境の影響については明らかになっていない.そこで本研究では,この点に着目し,実験により,温度環境の違い,溶接の有無,腐食溶液の違いによる孔食への影響を検討した. 【研究の方法】試験片はオーステナイト系ステンレスSUS304冷間圧延材を用い,溶接ロボットによりTIG溶接を施工した.また比較実験として未溶接材による実験を行った.温度環境として,CDF法(RILEM)に準拠した温度変動(最低温度-20℃,最高温度+20℃,12時間で1サイクル)により凍結融解環境を再現した.更に比較のため,実際の温度振幅の最高および最低温度(+20℃と-13℃)に保持した恒温試験をそれぞれ並行して実施した.腐食溶液は様々な塩害,腐食環境を想定し,塩化ナトリウム,塩化カルシウム,塩化第二鉄,塩酸を用いた.各溶液による試験期間は,最長84日間(凍結融解168サイクル)で実験を行った. 【研究の成果】本研究により次の結果が得られた.(1)孔食状況:凍結融解環境下で最も孔食が発生し,孔食促進に影響していることが明らかとなった.(2)凍結融解時の腐食環境:溶液の凍結直前と融解開始時における孔食に影響を及ぼす塩化物の局部的な濃縮がみられ,孔食促進に影響を及ぼしていると推察した.(3)孔食と残留応力分布との関係:溶接近傍に集中している大規模孔食の発生位置と溶接シミュレーションによる残留応力の最大位置が一致していることから,残留応力が孔食促進に影響を及ぼしていると推察した.以上のことから結論として,凍結融解環境下では,溶接近傍の引張残留応力が高い領域に激しい孔食が見られ,その原因として,腐食を誘発する溶媒の濃度が凍結によって局所的に高くなり,その箇所が溶接部近傍の残留応力と相互作用することにより腐食が促進することが考えられる.
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