【研究目的】抗がん剤投与に伴う静脈炎や血管外漏出などの血管障害が生じた場合、患部の冷却やステロイド剤の適用といった対症療法が行われるものの、積極的な治療あるいは予防策はほとんどなされていないのが現状である。本研究では、抗がん剤による血管障害に対する予防・治療策の確立を目指して、in vitro血管障害評価モデルを作製し、発現機序の解明を行った。 【研究方法】壊死性抗がん剤(ビノレルビン、ドキソルビシン)、炎症性抗がん剤(シスプラチン、5-FU)、非炎症性抗がん剤(メトトレキサート、シタラビン)を培養ブタ大動脈血管内皮細胞に処置し、細胞生存率をWST-8法により測定した。各濃度における細胞生存率から50%細胞阻止濃度(IC50)を算出し、各種抗がん剤に対する血管内皮細胞の感受性を比較した。ビノレルビンによる細胞死の評価には、PI(propidium iodine)/Annexin染色法、カスパーゼアッセイ法を用いた。ミトコンドリア機能はJC-1染色法により評価し、細胞内ATP含量は高速液体クロマトグラフ(HPLC)にて定量した。 【研究成果】各種抗がん剤の処置により、血管内皮細胞に障害が惹起された。その障害は、壊死性、炎症性、非炎症性抗がん剤の順に高く、特にビノレルビンにおいて顕著であった。本検討結果は、臨床における「血管外漏出時の抗がん剤の組織侵襲に基づく分類」と一致しており、本モデルの有用性が示された。一方、ビノレルビンにより障害された細胞は、PI/Annexin染色に陽性:であり、時間依存的なカスパーゼ3/7の活性が認められた。さらに、ビノレルビン曝露により、細胞内ATP含量が有意に低下し、曝露後6時間よりJC-1染色陽性細胞が確認されたことから、ビノレルビンによる血管内皮細胞障害は、ミトコンドリア機能異常を伴うアポトーシスにより誘発されることが明らかとなった。
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