研究概要 |
本研究は、微細構造と抗原性の保持に優れ、かつ様々な組織・抗体に適用できる透過電子顕微鏡のPost-embedding法(超薄切片上での免疫染色を行うこと)用の包埋法の開発を目的とし、以下の包埋剤を検討した。これまで、固定液ではパラホルムアルデヒド(PFA)と少量のグルタルアルデヒド(GA)の混合比を変えることにより、両方の目的を可能にする固定包埋法の検討をおこなってきたが、今回はGAを使用せず、PFAによる方法で、マウスの視神経、大脳、小腸、腎臓、筋肉の組織試料を固定した。 免疫染色包埋樹脂はLR White、LR Gold、Lowicryl K4M、テクノビット7200VLC、Lowicryl HM20を用いて、それぞれの定法に従って試料作製をおこない、光学顕微鏡(Toluidinblue染色)と透過電子顕微鏡(ウラン鉛染色・免疫染色)で微細構造に差がないか比較観察をおこなった。また、免疫染色では、大脳と腎臓のみでラット抗IV型コラーゲンα鎖抗体(H22,H31,H53、重井医学研)及びウサギ抗アクアポリン抗体(Santa Cruz)染色での金コロイドの分布状態において抗原性の比較検討をおこなった。 以上の実験検討をおこなった結果、微細構造と抗原性に優れた包埋方法としては、Lowicryl HM20>LR White>LR Gold>Lowicryl K4M>テクノビット7200VLCという順番となった。 次に、良好な結果であったLowicryl HM20凍結置換包埋において、置換剤(メタノール)に使用する添加剤について検討した。酢酸ウラン(UA)やタンニン酸(TA)などを使用する方法があるが、今回は新しくTIブルー、シトラコン酸、メタ過ヨウ素酸ナトリウム(NalO4)を試みた。 TIブルーは、UA同様に像のコントラスト・抗原の保存性は良好だが、組織への浸透性が悪かった。シトラコン酸は、酸の影響により微細構造が少し悪くなるが抗原の保存性は良好であった。NalO4は、微細構造・抗原の保存性は最も良好だった。この試薬は有機溶媒には溶けにくいとされているが、何らかの効果(浸透性あるいは酸化作用)があると考えられる。 検討の結果、急速凍結後に凍結置換包埋がおこなえるLowicryl HM20樹脂包埋で、NalO4だけを添加剤として使用する方法または、NalO4とUA(コントラスト向上)を併用する方法が有効であることがわかった。
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