研究概要 |
【目的】骨折痛の基本概念の確立を目的に、独自に開発した骨損傷モデル(ラット脛骨に骨孔を作製することで固定の影響を除外した骨損傷モデル)に対して、骨損傷治癒期間中の限局性圧痛の変化を行動学的実験で評価し、骨折部の神経分布の変化を明らかにする。また、骨損傷後に神経線維の増加や痛覚の感作を引き起こすと考えられる神経栄養因子(NGF)について、その拮抗薬を用いて行動薬理学的実験で圧痛に関連するメディエーターであるか調べる。 【方法】ラットの脛骨に、1)皮膚、骨膜を切開しドリルで骨孔を開けた骨損傷群、2)皮膚、骨膜切開を行った骨膜切開群、3)皮膚切開のみ行った皮膚切開群、の3群を作製し、損傷部の機械刺激に対する逃避行動を観察した。また、治癒経過をHE染色にて観察し、免疫組織化学的に標識した神経線維の長さを計測した。さらにNGFの損傷部での発現を免疫組織化学的に標識して確認し、NGF中和抗体とNGF受容体であるTrkAの阻害薬(K252a)を損傷部へ投与し痛覚の変化を観察した。 【成果】圧痛は骨損傷群で28日間、骨膜切開群で21日間、皮膚切開群で5日間、観察され、骨損傷群と骨膜切開群は長期間圧痛が見られた。骨再生期間は骨損傷群で28日間、骨膜切開群で21日間であった。神経分布の変化は、損傷後7日目において骨膜切開群の皮膚にGAP43陽性神経線維が一過性に増加しており、損傷後28日目において骨損傷群の仮骨及び骨膜にCGRP,TH,GAP43陽性神経線維が著しく増加していた。NGF中和抗体およびNGF受容体であるTrkAの阻害薬(K252a)は骨損傷群の7日目および28日目の圧痛を抑制した。したがって、骨折治癒期間中の骨再生期間と一致して圧痛があり、その期間中には神経線維の増生およびNGFの発現が認められた。NGFの拮抗薬を用いて、圧痛が抑制できた事から、骨損傷時の痛みには、骨の治癒過程と、神経線維の発芽が関与しており、NGF-TrkAを介する知覚神経の感作が示唆された。
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