ネスチンは神経外胚葉の前駆細胞(幹細胞)に特有のIV型中間径フィラメントに分類される細胞骨格タンパクである。このタンパクは胎生期の中枢神経系の形成過程での多潜性幹細胞に選択的に発現し、ニューロンや星状膠細胞に分化が進むと発現は消失する。中枢神経系以外では消化管のカハール間質細胞、横紋筋の神経筋接合部や筋腱接合部での横紋筋細胞での発現が確認され、歯では象牙芽細胞に免疫反応が確認されている。我々は歯の形成過程でのネスチンの発現を検討していたところ、ラット切歯歯根膜にネスチン陽性の樹枝状の分岐構造物が存在することを見いだした。これは歯根膜機械受容器であるルフィニ神経終末である可能性が高いが、ネスチンの局在部位および存在意義は不明である。本研究はラット切歯歯根膜ルフィニ神経終末の生後発育過程におけるネスチンの発現パターンを免疫細胞化学、RT-PCR法、免疫二重染色法を用いて、タンパクならびに遺伝子レベルで検討し、ネスチンの歯根膜ルフィニ神経終末における存在意義を明らかにすることを目的とした。 1. RT-PCR法により、歯根膜組織ならびに三叉神経節にネスチンのmRNAが観察された。 2. 三叉神経節では観察期間中、衛星細胞がネスチン陽性を示したが、神経細胞はネスチン陰性であった。 3. 生後3日ではネスチンの免疫反応は紡錘形をしたシュワン細胞に観察された。 4. 歯根膜神経終末が樹枝状を示すようになる生後1週では円形の細胞がネスチン陽性となり、これらはS-100タンパク、非特異的コリンエステラーゼ反応陽性であり、この円形の細胞が歯根膜ルフィニ神経終末に付随する終末シュワン細胞と考えられた。 5. 生後2から3週にかけて、ネスチン陽性終末シュワン細胞の数は増加した。 この免疫反応の発現パターンは外来刺激に対する歯根膜ルフィニ神経終末の機械的安定性に関与する中間径フィラメントとしてネスチンが機能することを示唆する。
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