【目的】Aeromonas属は、亜熱帯地域に位置する沖縄県に特有の感染症起因菌であり、肝硬変や糖尿病などの疾患をもつ患者の敗血症は極めて予後不良となる。本研究課題は、沖縄県在住の患者に由来する臨床検体と沖縄本島内で採集した環境水に由来するAeromonas属の病原因子を表現型と遺伝子型から解析することを目的とした。 【材料と方法】沖縄本島内の河川、池、湧き水など、234箇所で環境水を採取し、そのNaCl濃度を測定すると同時に、遠心沈査を血液寒天培地に接種、培養してAeromonas属の分離を試みた。また、患者検体に由来する菌株、A.hydrophila 63株、A.sobria 4株を収集した。それぞれの菌株について、ガス産生能、Voges-Proskauer(VP)試験、リジン脱炭酸試験を行い、ヒト血液への溶血活性はプロス培養法で定量した。Aeromonasの保有する溶血毒素遺伝子(ahh 1、asA 1、aer A)を特異プライマーを用いてPCR法により確認した。 【結果】234件の環境水よりA.hydrophila 93株、A.sobria 41株の計134株(分離率57%)を分離、同定した。Aeromonas属が分離された環境水のNaCl濃度は97%の分離株で0.9%以下であった。ガス産生能、VP試験およびリジン脱炭酸試験の陽性率には患者検体由来株と環境水由来株には有意差はなかったが、環境水由来の菌株の溶血活性は2峰性を示した。溶血毒素遺伝子は患者検体由来株の96%で確認されたが、環境水由来株では81%と、有意に低率であった。 【考察】環境水中に広く分布する多様なAeromonas属の内、溶血毒素遺伝子あるいは表現型として強い溶血活性を示す菌株が重篤なヒト感染症を来すものと推測された。患者由来菌株と相同性をもつ菌株を環境由来菌株群のなかに探索することでその解明が可能になると考えた。
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