研究課題/領域番号 |
20H00020
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分3:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
常木 晃 筑波大学, 人文社会系(名誉教授), 名誉教授 (70192648)
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研究分担者 |
渡部 展也 中部大学, 中部高等学術研究所, 教授 (10365497)
安間 了 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (70311595)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
39,780千円 (直接経費: 30,600千円、間接経費: 9,180千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
2021年度: 11,050千円 (直接経費: 8,500千円、間接経費: 2,550千円)
2020年度: 13,910千円 (直接経費: 10,700千円、間接経費: 3,210千円)
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キーワード | ジャルモ遺跡 / イラク・クルディスタン / 肥沃な三日月地帯東部 / 新石器化 / 天水農耕と湧水農耕 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、新石器化研究の原点ともいえるイラク・クルディスタンのジャルモ遺跡を対象に再発掘調査と総合古環境調査を実施し、学史的に極めて重要なジャルモ遺跡を最新の調査法と研究法で捉えなおすとともに、肥沃な三日月地帯東部での新石器化と社会の複雑化に関する新たなモデル(ザグロス山脈前衛のケスタ地形の湧水を利用した帯水農耕と丘陵部の天水農耕を組み合わせた複合的農耕モデル)を提案・検証し、西アジア地域全体の新石器化研究を前進させていきます。
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研究実績の概要 |
ジャルモ遺跡での発掘調査を含む総合調査を実施するにあたり、イラク・クルディスタン自治政府文化財博物館総局スレマニ文化財局所属の研究協力者が現職プロジェクトの都合により事前準備に参加できなくなったため、令和4年度の現地調査の令和5年度への繰越を申請した。繰越が認められたため、研究協力者とともに総合調査の事前準備を令和4年2-3月に行い、発掘調査を含む総合調査を令和5年5-7月に延期して実施することができた。 ジャルモ遺跡での総合調査では、イラク・クルディスタン自治政府文化財博物館総局および同スレマニ文化財局の全面的な協力を得て、令和5年5月半ばから7月半ばまで、ジャルモ遺跡の発掘調査およびジャルモ遺跡周辺の古環境復元のためのGIS・地質学調査、出土遺構の民族考古学的調査などを実施した。また調査中に在イラク日本大使館の松本太大使がジャルモ遺跡をご訪問下さり、多くの励ましをいただいた。 ジャルモ遺跡の発掘調査では、なぜ人々がここに新石器時代の村落を作り始めたかについての知見を得るために、同遺跡の最古の文化層の調査を目指して、前年度調査したJ-II発掘区を掘り進め、遺跡の最上層から約7mの深さで、泥灰岩の地山に到達することができた。少なくとも3m以上の厚さで先土器新石器時代の文化層が存在することが確定した。地山上には簡単な竪穴状の居住ピットが検出され、牧畜用あるいは野生動物を狩猟するための小屋を建てたのが村落の始まりであった可能性が高くなった。その直後にはピゼ壁による方形の建物を建て初め、また住居内に埋葬を行ない、相当な規模の新石器時代村落を作り始めたことも明らかとなった。土器は全く出土せず、石製容器や多数の土偶、葦で編んだ炭化したマット類、炭化植物種子、動物骨、2万点以上のカタツムリなども出土し、古代村落の様相がかなり明確となってきた。古環境復元のための資料も多く収集できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍によりジャルモ遺跡での調査実施が遅れたが、令和4年度、5年度に同遺跡の本格的な発掘調査及び古環境復元のための環境科学調査を実施することができ、当初の目的であるジャルモ遺跡の文化シークエンスの復元と、古代村落の実態を示す多数の資料を得ることができた。前者については、令和4年度実施のJT調査区においてジャルモ遺跡が終焉した土器新石器時代の文化層を連続して調査し、ジャルモ新石器時代集落の最終的な時代と様相を明らかにすることができた。また、両年度に調査したJ-IIcentral調査区では、地山である泥灰岩層に築かれ始めた最初期の村落文化層に達し、その後発展していく先土器新石器時代村落の様相を明らかにすることができた。 発掘調査に入る以前から、研究代表者らは、ジャルモ遺跡が営まれたザグロス山脈前衛丘陵のケスタ地形という立地が、通常の新石器時代集落が営まれる山間盆地や扇状地末端という立地と大きく異なる点に着目していた。そしてザグロス山脈への降水が、砂岩と泥灰岩の互層によるケスタ地形に沿って伏流し、砂岩と泥灰岩の間から湧水する連続した泉の存在が、ジャルモでの村落形成に大きな影響を与えたのではないかとする仮説を立てて調査に取り組んできた。発掘調査では、こうした泉からの湧水に沿って生育する葦を編んだ炭化マットが数多く出土し、ジャルモの人々が湧水を積極的に利用した生活を営んでいたことがはっきりと判明した。また当時の生業を復元できるような動植物資料や、村落生活を復元できる住居やパン焼き竈など、良好な考古資料を得ることができた。 古環境の復元調査では、GISやドローンなどを積極的に利用した古地形の復元、チャムガウラ川の流路復元などを行い、約9000前の村落利用時の周辺環境復元が進んでいる。 現在、発掘調査で得られた資料の研究と古環境復元に取り組んでおり、当初の研究目的の達成に近づいている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、令和4、5年度に実施したジャルモ遺跡の本格的な発掘調査で得られた多くの考古学資料、動植物資料、遺跡周辺の古環境復元のための理化学的資料などの分析を精力的に進めている。これらの分析には、最新の研究法による多様で新たな研究を行い、これまで提起されてきた「農耕牧畜化される自然の動植物が集中していたいわゆる核地帯における天水農耕に基づいた新石器化」というブレイドウッドらの提起したジャルモ遺跡像を再検討し、「ザグロス山脈という肥沃な三日月地帯東部の自然生態系の中で、天水とケスタ地形に湧出する多くの泉と小河川の湧水を組み合わせたより複雑な新石器化」という新たな仮説を証明しようと試みている。幸い、令和4、5年度に大規模に実施できた本格的な発掘調査では、炭化植物種子や動物骨資料、2万点以上の食用カタツムリ類、葦を編んだ炭化マット類などの生業に直接関連する資料ばかりでなく、多様な石製容器やビチュメンなど炭化物が付着した土器、出土状況の良くわかる土偶や土製品、埋葬など、先史時代ジャルモの生活環境を相当に復元できるような豊かで多様な遺物が出土している。 さらに、ジャルモ古環境の復元のための様々な理化学的資料も蓄積することができた。これらに基づき、接峰面図などを作成して1万年~9千年前の、ジャルモ遺跡が営まれた当時の自然環境を相当復元することができてきている。またジャルモ遺跡そのものからだけでなく、その周辺から新石器時代の遺物などを表面採集し、それに基づきジャルモの周辺の農地や一時的な生活拠点などの復元にも取り組んでいる。 これらの多様な研究を行うことで、当初目標としたジャルモ遺跡の新しい先史時代像を描き出し、研究の遅れてきた肥沃な三日月地帯東部を新石器研究の座標に戻し、西アジアにおける新石器化研究を前進させたい。
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