研究課題/領域番号 |
20H00026
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分3:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
門脇 誠二 名古屋大学, 博物館, 教授 (00571233)
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研究分担者 |
池谷 和信 国立民族学博物館, その他部局等, 名誉教授 (10211723)
田村 亨 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 上級主任研究員 (10392630)
山本 鋼志 名古屋大学, 博物館, 特任教授 (70183689)
束田 和弘 名古屋大学, 博物館, 准教授 (80303600)
長谷川 精 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 准教授 (80551605)
近藤 康久 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 准教授 (90599226)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
44,330千円 (直接経費: 34,100千円、間接経費: 10,230千円)
2024年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
2023年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
2022年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
2021年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
2020年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
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キーワード | 考古学 / 西アジア / 人類史 / 旧石器時代 / ホモ・サピエンス / 資源利用 / 古環境 / 狩猟採集 / 地球科学 / 地理学 / 文化人類学 |
研究開始時の研究の概要 |
レヴァント地方では、ホモ・サピエンス(新人)の拡散や農耕牧畜の発生など新人社会の基盤形成に大きく寄与した歴史事象が早くから進行したが、当地は乾燥気候が卓越し人類の生存にとって最適な環境とはいえない。 本研究は、限られた資源の有効利用が新人社会の基盤形成を支えた根本要因だったのではないかという仮説を掲げ、新人が旧人と共存していた約7万年前から農耕牧畜が発生し始めた約1万年前までを対象に、レヴァント乾燥域における人類の資源利用行動を明らかにする。 水資源と石器石材の分布を、考古学・文化人類学・地理学・地球科学の方法により記録・分析し、遺跡の分布や石器石材の産地同定、石材の利用効率などの分析を行う。
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研究実績の概要 |
2022年度はヨルダン調査を実施できたことが大きな成果である。昨年度まで日本で行っていた資料分析の結果に基づき、新たなサンプルやデータ収集を行うことができた 1)石器石材の産地と利用: 以前に発見していた露頭におけるチャートの産状を詳細に記録するため地質図を作成した。また、石材の化学組成に基づく産地同定を行うために、チャート露頭でサンプリングを行い、日本で岩石学的分析と化学組成の測定を行った。さらに、見た目や質感によるチャートの違いが打製石器の製作にどのように関連するかを明らかにするために、シュミットハンマー等を用いた硬度測定を行った。 2)移動コスト等の解析: 遺跡周辺の高解像度地形データを用いて、地形を加味した移動コストの空間変異や紅海までの最小コストルートの解析を行った。その結果、カルハ山周辺の石器石材産地は、マーアン台地の半分以下のコストでアクセスできることが分かった。また、カルハ山より南のチャート露頭は、紅海への最小コストルートの近くに位置することが分かった。 3)水資源とその利用: 旧石器時代の遺跡が集中するカルハ山において天然の水場の記録を行った。9月初旬でも春の雨水が残っている場所があり、この地域は乾燥地帯における「峡谷オアシス」であるという説と整合的な観察結果を得られた。また、新たな天然の水場の記録も行った。 4)古気候の復元: 遺跡堆積物の地球科学分析を継続したほか、遺跡から出土した動植物から周辺環境を推定する分析を進めた。特に、今年度に発掘調査を行ったTor Sabiha遺跡は動物遺存体の保存が比較的良好である。特に中部旧石器時代の文化層から出土した動物遺存体は、ネアンデルタール人がレヴァント地方にいた頃の環境を示す貴重な資料になると期待される。 5)年代測定: 今年度発掘調査したTor Hamar遺跡とTor Sabiha遺跡の年代測定を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は予定通りにヨルダン調査を実施することができた。以前に採取した資料の分析やその結果の考察を日本で深めていたので、ヨルダン調査におけるサンプリングやデータ収集を効率的に行うことができた。また、石器石材の化学分析や動物遺存体の安定同位体分析による古気候と狩猟行動の考察を論文で発表した。 さらに新人社会の基盤形成における文化的側面の大きな特徴として装飾品やその遠距離流通の発達があげられるが、海産の貝殻ビーズの利用と流通に関する研究の学会口頭発表と論文発表を行った。水資源とそれに集まる鳥の罠猟に関する民族調査についても、国際学会で発表した。この様に、資料収集とその分析、成果発表において順調に研究活動が進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査と研究により、水や食料、石器石材の資源が限られている南ヨルダンの調査地において、それらの資源の空間分布が明らかになってきた。特に旧石器時代の遺跡の分布密度が高いカルハ山域は、居住に適した岩陰や天然水場が多く、チャート露頭にも近いという条件がそろっていることが分かった。今後は、その周辺において類似した条件の地域を踏査し、新たな遺跡の探索を行う予定である。 石器石材の利用の通時変化については、中部旧石器時代のルヴァロワ方式から上部旧石器時代初期の大型石刃、そして上部旧石器時代前期~続旧石器時代の小石刃製作にかけての変遷が明らかになってきた。特に、石材の質量に対して得られる刃部の長さ(刃部獲得効率)のデータは貴重なものであり、その成果のとりまとめを今後進める。また、小石刃製作の発達に対応して、細粒で透明度の高いチャートの利用が増加する理由を確かめるために行ったチャートの硬度測定の結果のとりまとめも進める。 古環境やそれに対応した食料獲得行動の変遷については、これまでTor Hamar遺跡の続旧石器時代の分析において顕著な成果が上がり、それを幾つかの論文や学会で発表した。今後は、ネアンデルタール人がレヴァント地方にまだいた頃の中部旧石器時代後期を対象に分析を進める。以前から分析を進めたTor Faraj遺跡の成果をとりまとめると共に、現在発掘を進めているTor Sabiha遺跡の新資料(特に動物遺存体)から、当時の狩猟行動や環境に関する貴重なデータが得られると期待される。
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