研究課題/領域番号 |
20H00130
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石田 憲二 京都大学, 理学研究科, 教授 (90243196)
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研究分担者 |
徳永 陽 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (00354902)
青木 大 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (30359541)
北川 俊作 京都大学, 理学研究科, 助教 (50722211)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
44,850千円 (直接経費: 34,500千円、間接経費: 10,350千円)
2023年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
2022年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
2021年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
2020年度: 12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
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キーワード | ウラン化合物超伝導体 / スピン三重項超伝導体 / 核磁気共鳴実験 / 低温物性 / スピン三重項超伝導 / ウラン化合物超伝導 / 核磁気共鳴 / スピン磁化率 / 強相関電子系 / 金属物性 / 物性実験 / 超伝導材料・素子 |
研究開始時の研究の概要 |
ウラン化合物超伝導体の中でも、2018年11月に超伝導が発見されたUTe2に絞り①ウラン化合物超伝導の発現機構の解明、②スピン三重項超伝導で期待される超伝導多重相の理解、③スピン・軌道の自由度を持った超伝導対に由来する集団励起の検出など、「スピン三重項超伝導に起因した新奇現象の発見と理解」を目指す。具体的にはUTe2における高磁場に見られる磁場増強超伝導相における強磁性ゆらぎと超伝導の関係、加圧下で報告のあった多重超伝導相における超伝導秩序変数の同定、超伝導状態の低励起ゆらぎの測定を、良質単結晶試料を用いた高磁場・低温・高圧下の核磁気共鳴(NMR)実験より明らかにする。
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研究実績の概要 |
2018年11月に超伝導が発見されたUTe2(ウラン・テルル2)は、発見当初超伝導転移温度はTc ~ 1.6 Kであったが、近年ウラン欠損を含まない純良単結晶の育成に成功し転移温度は2.1Kまで上昇した。超伝導は磁場に対してとても強固で結晶のb軸に16テスラ以上の磁場を印加すると転移温度が上昇し超伝導は35Tまで観測される。さらにb軸からc軸に30度傾けると、40Tから超伝導は現れはじめ60Tまで生き残るという驚くべき振舞いを示す。これらの結果はUTe2ではスピン三重項超伝導が実現していることを示している。このスピン三重項超伝導ではスピン自由度が残っており、スピンは外部磁場と同じ方向をとることにより、高い磁場まで超伝導は生き残ると予想される。しかし、このスピン三重項超伝導は非常に稀であり、現在までその物性は理解されているとはいいがたい。また圧力下でも興味深い振舞いが見られ、静水圧下では0.3GPaを境に超伝導転移温度は上昇し、1.2 GPaで超伝導は3Kを示す。さらに、転移温度の上昇が見られた圧力領域では超伝導相内で新たな転移が見られ、異なる超伝導状態が実現する「超伝導多重相」の振舞いが報告された。しかし超伝導多重相の各相の性質は未だ不明である。 我々は、上記の興味深い振舞いを示すUTe2に絞り、微視的な測定であるTe―NMRを行い、超伝導状態のスピン磁化率と関係するTe-NMRのナイトシフト測定から、①UTe2におけるスピン三重項超伝導の同定、②b軸磁場下および加圧下で見られた超伝導多重相の理解を行ってきている。さらに動的な磁気性質に関係する核スピン格子緩和率1/T1の測定から③スピン・軌道の自由度を持った超伝導対に由来する集団励起の検出、④超伝導の発現機構の解明、などを行い、「スピン三重項超伝導に起因した新奇現象の発見と理解」を目指した研究を行ってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
NMR測定は、核スピンをもつ125Teを濃縮したUTe2単結晶で行っている。共同実験者の青木氏より125Teを99%まで濃縮したUTe2単結晶試料の提供を受け実験を行なっている。これにより、125Te-NMR信号強度は10倍程度大きくなり、精度の高い実験結果が得られるようになった。 まずこの試料のH ||bの超伝導状態を調べるため、東北大学に設置されている無冷媒超伝導磁石を用い24Tまで交流磁化率、Te-NMR測定を行った。最低温の0.5Kでの交流磁化率の磁場依存性より、超伝導反磁性の大きさが16Tを境に磁場とともに大きくなり、超伝導相内に転移に相当する異常が存在することを見出した。また16T以上の高磁場超伝導相は狭い角度でしか見られず、低磁場超伝導相と性質が異なることを明らかにした。さらに、高磁場超伝導相の性質を調べるためにTe-NMRからナイトシフトの測定を行た。その結果、 高磁場超伝導相では超伝導転移に伴いナイトシフトの減少は見られず、明確にナイトシフトの減少が観測された低磁場超伝導相の振舞いと異なることがわかった。この結果は低磁場超伝導と高磁場超伝導相とでは、超伝導対のスピンの状態が異なっていると考えられる。 さらに、超伝導転移温度が2.1 Kのウラン欠損を含まない純良単結晶の試料で各軸方向での低磁場ナイトシフトの測定を行い、以前測定した1.6K試料の結果と比較した。H||b、H||cではどちらの試料でも超伝導以下で減少が見られ定性的に同じ振舞いであった。ところが2.1Kの試料ではH||aのナイトシフトは超伝導転移後急激に減少し、常伝導の温度依存性を延長して低温に向かって増大する1.6Kの試料の振る舞いとは大きく異なることを見出した。このH||aのナイトシフトの振舞いの違いについて考察し、2.1K試料の結果から考えられる超伝導状態について議論した。
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今後の研究の推進方策 |
UTe2の超伝導発見当初からの純良単結晶育成の努力により、昨年度超伝導転移温度が2.1 Kのウラン欠損を含まない純良単結晶が得られた。2.1K試料では、1.6K試料で見られた常伝導の半分程度の大きな残留電子比熱係数は見られず、超伝導状態でのエントロピーバランスも保たれている。これにより、2.1Kの超伝導転移温度はUTe2の本質的な超伝導転移温度と考えられる。今後は ① UTe2の本質的な物性を調べるために2.1Kを測定する。そして以前の1.6Kの試料の結果と比較し、Tc抑制やウラン欠損がもたらす影響を調べる。② 今年度1.6K試料でH||bの高磁場超伝導相の特性を東北大学に設置されてある無冷媒25T超伝導磁石を用い調べた。同様の測定を2.1K試料でもおこない試料依存性が見られないか調べる。さらに高磁場超伝導相での転移温度上昇の機構を調べるために、スピンゆらぎの性質を核スピンの緩和率測定から明らかにする。③ UTe2の超伝導は加圧により超伝導転移温度は上昇し、超伝導相内で新たな相転移が観測されその後2GPa以上の圧力で消失する。この超伝導多重相の振舞いをTe-NMRから微視的に調べ、各超伝導相の特性を明らかにし実現している超伝導状態を同定していく。④ 2.1K試料を用い、超伝導状態での緩和率測定から超伝導ギャップ構造を調べる。さらに低温においてHe3超流動で観測されたCollective modeに相当するスピン三重項対に特有のスピンダイナミクスの検出を試みる。⑤ 2.1K試料を用いて、臨界圧力Pc以上での磁気相を調べる。具体的には磁気相での臨界ゆらぎを抑制するため、圧力セルを100mK以下の希釈冷凍機温度域まで冷却し磁気秩序相のTe-NMR信号の検出に努める。信号が見つかれば磁気相での磁気構造を考察する。
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