研究課題/領域番号 |
20H00157
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中澤 知洋 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 准教授 (50342621)
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研究分担者 |
武田 伸一郎 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任助教 (80553718)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
44,850千円 (直接経費: 34,500千円、間接経費: 10,350千円)
2023年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2022年度: 11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
2021年度: 17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2020年度: 12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
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キーワード | 高エネルギー宇宙物理学 / MeVガンマ線 / 半導体コンプトン望遠鏡 / 気球実験 / MeV宇宙観測 / 半導体コンプトンカメラ / DSSD / CdTe-DSD / miniSGD / 宇宙物理 / 大気球実験 |
研究開始時の研究の概要 |
最初の2年間は、地上においてSi/CdTe-SCTとシールドを組み合わせた試作検出器を開発し、地上試験を中心にその性能評価を進める。気球搭載のためには、コンパクトかつ低消費電力であることが重要である。研究計画の後半の2年間では、この検出器を改良して大気球用のゴンドラに搭載し、海外の長時間気球への搭載を調整するのと並行して、国内での調整も進め、短時間で良いので高度35-50 km の大気球高度にあげて、その高度でのバックグラウンドなどの観測性能を実証する。このため、2年目ごろから気球実験の視察や、海外コラボレータとの連携による超長時間気球へのチャレンジも進める。
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研究実績の概要 |
宇宙観測でMeVガンマ線だけは観測感度が数桁も劣り、その改善は宇宙観測の最重要課題の一つである。有力な解として世界中で半導体コンプトン望遠鏡 (Semiconductor Compton Telescope, SCT)の開発が進んでいる。我々は広島大学やJAXA等とともに日本独自のSi/CdTe-SCTを開発 し、2016年に「ひとみ」衛星に搭載してSCTとして世界で唯一軌道上で動作実績を得た。初期運用中に衛星が失われてしまったが、たった1.5 時間の観測で「かに星雲」の100 keV帯の偏光観測に成功するなど、開発の最先端にある。本研究では「アクティブシールド付きSi/CdTe-SCT」の、将来の超長時間気球への適用を目指し、小型の試作機miniSGDを用いてその観測性能を検証する試験観測を実施することを目標とする。装置の基本構成部分に、次世代の硬X線の高感度観測を目指すFORCE衛星向けに開発中の技術を採用し、その基礎開発も兼ねている。 2023年初頭の気球実験へ向けて、2021年度は急ピッチで検出器システムを開発した。コアとなる SCT は、CdTe部を9月までに4セット、シリコン部も11月までに2セット揃え、データ取得系も含めてSCTとしての動作試験を12月に実施した。コンプトン撮像に成功し、正しく動作していることを示した。シールド部の開発も進め、12月には全系を組み合わせた動作試験を実施した。その後、試験場所を名大に移動して試験を継続し性能検証を進めている。電源となる電池の手配も終わり、耐圧容器の鍵を握る入射窓の開発と耐圧試験を実施した。データ送信やコマンド受信系の開発も進めた。 また提案に参加しているアメリカのMeV観測小型衛星COSIが、12月に2025年打ち上げで採択され、米欧日のコラボレーションが立ち上がった。MeV宇宙観測の新時代がまさに始まりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年4-5月のフライトに向けて、全系の開発を進めた。主要コンポーネントとして、SCTとBGOアクティブシールドは、全検出器ユニット、全読み出し系、検出器内配線、そして支持構造を含めて、足並みが揃って組み上げ・総合動作検証にまで到達した。低温試験も実施して、ヒーターの配置と動作試験も実施している。また、構造周りでは鍵を握る入射窓の低温耐圧試験を繰り返して技術を確立し、構造設計を進めてゴンドラ設計との調整も進めた。耐圧容器の設計もほぼ終わり、耐圧容器の主要部も納品され、現在、フィットチェック中である。国際・社会情勢による輸出入の混乱に備えて電池も予備を含めて全数購入した。システム全体の動作試験を進め、SCTとしてのファーストライトを得ており、耐圧容器やゴンドラとのインタフェースなども、遅れつつも予定のマージン内で開発が進んでいる。これらの成果は、物理学会や名古屋大学の学位論文としてまとめられており、後者は発表会で高い評価を得た。 昨年12月のCOSI衛星の採択は、MeV天文学全体にとって非常に重要な一歩であり、その日本チームメンバーとしての活動として、サイエンス検討の参加、サブ検出器の開発支援などが具体的に立ち上がった。20年ぶりに再開するMeV全天観測において、日本のプレゼンスをしっかり示すことができるよう、共同研究を加速させている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の末には、オーストラリアの射場に我々も展開する予定であり、今後は急ピッチで装置を完成させる。合わせて、その性能を強化するパラメータ調整を進め、オーストラリア移動前に検出器性能を確立させる。また、2022年7月には2年に一度の国際学会にでminiSGD実験のコンセプトの発表をする予定である。今後は、性能評価試験の継続、さらに検討している改善項目の実現のための改造、耐圧試験・低温試験などの環境試験の実施、ゴンドラとの噛み合わせなど、気球実験実現のための研究開発を着実に進めてゆく。2023年2月には現地に装置を発送し、4-5月の飛揚を迎える。5月には回収して帰国し、回収時の損傷などをチェックしたのち、第2段階として、FORCE衛星を目指した光電吸収モードでの低バックグラウンド硬X線観測の性能評価へ進みたいと希望している。 MeV観測小型衛星COSIの2025年打ち上げがNASAで採択されたことは、MeV天文学の進展に大きなプラスとなった。COSIはGe半導体に基づく半導体コンプトン望遠鏡であり、銀河系内の核ガンマ線放射を桁違いの高い感度・精度で観測できるようになる。検出器が重元素ベースであるために、量子論的なドップラーブロードニング効果により角分解能もminiSGDほどは高くないが、全天の突発天体監視や偏光観測の能力は高い。このようにCOSIは、「核ガンマ線の宇宙観測」の革新に特徴をもちつつ、小型ながら汎用の全天MeV天文台としての25年ぶりの観測を実現するもので、新しいMeV天文学の時代の先駆けとなる。miniSGDはCOSIと異なり、100-200 keVでの感度と偏光観測能力を重視した設計であり、将来的に相補的な観測を期待している。
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