研究課題/領域番号 |
20H00345
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分29:応用物理物性およびその関連分野
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
福間 剛士 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (90452094)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
45,500千円 (直接経費: 35,000千円、間接経費: 10,500千円)
2023年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
2022年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
2021年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
2020年度: 19,370千円 (直接経費: 14,900千円、間接経費: 4,470千円)
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / 原子間力顕微鏡(AFM) / 細胞観察 / タンパク質 / がん |
研究開始時の研究の概要 |
生きた真核細胞の表面で直接タンパク質のナノ動態を分子分解能観察できるAFM技術を開発する。さらに、それを分子レベルのがん研究に応用し、開発した技術が生命科学における重要な課題の解決に役立つことを実証する。具体的には、薬剤耐性を獲得したヒト肺腺癌細胞(PC-9)の表面において、過剰発現したMETの集合状態を直接観察し、薬剤耐性獲得に至る分子機構を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究では、1-5 um程度の穴の開いた窒化シリコン膜の上に細胞を培養し、その穴を通して細胞表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察する技術を開発する。また、その技術を用いて、がん細胞の薬剤耐性化に関与する膜タンパク質であるMET分子の複合体形成を生細胞表面で観察し、薬剤耐性化の機序について分子レベルの知見を得る。 これまでに、マイクロポーラスメンブレン(MPM)の上に細胞を培養する条件を確立し、穴を通して細胞表面を約10 nmの分解能で観察することに成功した。また、この技術を特許出願した。さらに、この技術により、化学固定前後の細胞表面構造をナノスケールで比較することで、化学固定により細胞表面のタンパク質が凝集し、表面構造が著しく変化することが明らかとなった。この成果をまとめて、論文として公表した(Commun. Biol. 2022)。 応用研究として、METをノックアウトした肺がん細胞PC9/KOと、それにMETを過剰発現させたPC9/KIの表面構造を観察して比較した。しかし、PC9細胞の表面構造は比較的複雑で、ばらつきが大きく、本研究に適さないことが分かった。そこで、比較的細胞表面構造が単純なCHO細胞を用い、同様にCHO/KOおよびCHO/KI細胞を準備し、それらの構造比較に取り組んだ。しかし、これらの細胞は動きが激しく、穴のから浸潤が激しく、そのままでは詳細な構造比較が難しいことが分かった。その後、この問題は、観察前日に培養液中からFBSを除去して細胞活動を抑制することで解決できることを見出した。現在、これらの方法を用いて、2種類の細胞の表面構造の観察および比較に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
総合的に判断すると、概ね順調に進展していると判断している。 本研究では、上記の通り、生細胞表面の高分解能AFM観察技術を開発し、それを用いてがん細胞の薬剤耐性獲得機構の研究を実施することを目的としていた。その中で、技術開発については、極めて順調に進展し、すでに特許出願、論文発表を終えており、予定通りの成果が得られている。さらに、技術開発の過程において、細胞の化学固定によって細胞表面構造が大きく変わってしまうことを見出した点は、計画外の成果であり、予定を上回る成果と言える。化学固定法は、古くから数多くの細胞生物学研究に使われてきた技術であり、今回の発見は、それらの研究の解釈に一石と投じる極めて重要な成果と言える。 一方で、AFMによる細胞表面観察については、やや予定に比べて難航している部分がある。当初、PC9細胞を利用しようとしたが、上記の困難に直面し、臨機応変にCHO細胞へと細胞種を変更した。さらに、上述の通り、穴から出てこようとする浸潤が激しく、最終的にはかなり苦労して細胞の飢餓化により活動を適度に抑制できることを見出した。この方法は、細胞分裂周期もG0/G1期に概ね制御することができるため、細胞間のばらつきも抑制し、系統的な研究に非常に有利であると考えている。これらの困難は当初予見していなかったものであり、結果的に時間を予定以上に要したが、それらの解決のめどがたったという成果を考慮すると、総合的には順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究で開発した細胞表面観察技術をさらに発展させるとともに、がん細胞の薬剤耐性獲得機構の解明に取り組む。 技術開発としては、すでに分子スケールの表面構造観察の実現性を示したが、その時間スケールは1分/フレーム程度と低速である。現在、ホッピングモードと呼ばれる大きな凹凸を持つ表面の観察に用いられる技術を使っているため、速度が出せないが、今後はタッピングモードやFMモードなども用いて、高速、高分解能化の可能性を検討する。また、細胞表面には多数のタンパク質が存在し、MET分子の有無による違いが構造だけでは判別できない可能性も考えられる。そこで、分子識別のための方法として、探針先端に分子センサを修飾する分子認識イメージング法と、細胞表面のMET分子に抗体を吸着させて、その構造変化を観察するAFM用の構造ラベル技術を並行して開発している。今後は、この研究にも取り組む。 応用研究としては、上述の通り、MET分子をノックアウトしたCHO/KO細胞と、それにMET分子を過剰発現させたCHO/KI細胞の表面構造観察を継続する。現状で、それぞれの観察には成功しているが、十分な試行回数で実験が行えていないので、今後は、データ数を増やし、信頼性のあるデータを使って比較を行う。ここで、もし、表面構造だけで違いが出ない場合には、上記の構造ラベル法や分子認識イメージング法を併用する。また、超解像蛍光顕微鏡との相関イメージングにも挑戦する。これらの結果を総合して、MET分子の集合状態を明らかにし、従来の仮説であるクラスタリングすることで、薬剤耐性を獲得しているというモデルを検証する。
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