研究課題/領域番号 |
20H00347
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分29:応用物理物性およびその関連分野
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
奥田 太一 広島大学, 放射光科学研究センター, 教授 (80313120)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
45,890千円 (直接経費: 35,300千円、間接経費: 10,590千円)
2023年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2022年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2021年度: 13,260千円 (直接経費: 10,200千円、間接経費: 3,060千円)
2020年度: 22,620千円 (直接経費: 17,400千円、間接経費: 5,220千円)
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キーワード | トポロジカル相転移 / オペランド分光 / スピン分解光電子分光 / キラリティ誘起スピン選択効果 / スピントロニクス / スピン・角度分解光電子分光 / 外場印加下光電子分光 / マイクロビーム / カイラル誘起スピン選択効果 / 放射光 / オペランド / トポロジカル物質 / 放射光微小ビーム |
研究開始時の研究の概要 |
トポロジカル絶縁体に代表されるトポロジカル物質は表面に存在する理論上100%スピン偏極した特殊な表面電子状態を利用することで、スピントロニクスデバイス実現のキーマテリアルとなると考えられている。実際にスピントロニクスデバイスへ応用する際には、温度や磁場、圧力といった様々な外場に対する電子状態の応答を解明することがデバイスの安定性や、機能性デバイス創世の観点から重要である。そこで本研究では我々の保持する世界最高性能のスピン・角度分解光電子分光装置に集光ミラーによりマイクロサイズに集光した放射光ビームを導入し、トポロジカル物質の電子状態を効率よく観測し、トポロジカル物質の外場応答を解明する。
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研究実績の概要 |
トポロジカル絶縁体に代表されるトポロジカル物質の外場(温度、圧力、電場など)によるトポロジカル相転移は理論的に予測されているが、実験的な実証はまだほとんど行われていない。本研究では、トポロジカル物質の電子状態(バンド分散、スピン偏極)を直接観測できるスピン・角度分解光電子分光を外場を印加しながら行い、トポロジカル相転移の物理を解明することを目的としている。 スピン・角度分解光電子分光法は測定効率が悪いという問題があるため、様々な条件下での電子状態を効率よく観測するための工夫が必要となる。そこで、本研究では試料に温度勾配、圧力勾配、電場勾配などを生じさせ、測定に用いる励起光(放射光、レーザー)を微小に絞り、試料上の位置を変化させて測定することで効率よく外場の変化による電子状態の変化を観測することを計画した。微小ビームの実現のため、まず、スピン・角度分解光電子分光装置の設置されている放射光ビームラインにキャピラリー型の回転楕円ミラーを導入した。現時点では横400μm×縦100μm程度にビームが縛られていることを確認できた。ただし、このビームサイズは当初の予定より横方向が大きいため、並行してレーザーを用いたスピン分解光電子分光実験装置に集光レンズを導入し、こちらでもビームの微小化を行い、5ミクロンサイズの微小ビームを実現した。また、マイクロビームの試料上での照射位置を制御するためにステッピングモーター制御式の高精度のXYZステージを導入し、制御プログラムも整備した。 電圧を印加したり、電流を流しながらの電子状態測定(オペランド測定)に向けて、多端子電極を持つ特殊試料ホルダーを作成し、それらの電極に電圧を印加できる様にマニピュレータの改造を行った。また圧力印加用の試料ホルダーも作成し、圧力印加下でのスピン・角度分解光電子分光の測定を行い、相転移現象の可視化を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トポロジカル物質の電子状態の外場印加による相転移現象や、近年発見されたカイラル物質に電流を流すことにより生じるカイラリティ誘起スピン選択効果の解明を目指し、本研究課題では外場(圧力、温度、電流)印加下でのオペランドスピン分解光電子分光測定の開発を行っている。 R4年度は、金メッキを施した完成版回転楕円ミラーを導入した。またR3年に導入した試料位置を高精度(数μ以下)で制御できる試料マニピュレータを制御するためのソフトウェアの整備を行なった。放射光ビームは現状では縦x横=100x400ミクロン程度に絞れているが、このサイズでは当初の予定より横方向のビームが大きいため、相補的な装置として6eVレーザー光を用いたシステムも並行して開発を進めており、光学レンズを用いてレーザービームを5ミクロン程度の微小ビームに絞ることに成功した。 そこで実際に圧力印加を行いながらの測定を開始したが、放射光を用いた測定では明瞭な圧力印加効果が観測できていない。これには上述のビームサイズが当初予定より大きいと言うことが影響している可能性がある。そのため現在レーザーでの測定の準備を行っているが、一方でより大きな範囲に圧力をある程度均等に印加できる試料ホルダーも新たに開発した。このホルダーでは熱膨張率の異なる二種の金属を用いることで温度を上昇しながら試料に圧縮圧力をかけたり、逆に引っ張り圧力をかけたりすることが可能である。また電流を流しながら電子状態を観測するための電流印加用のマニピュレータの改造と試料ホルダーも開発した。これを用いてカイラル物質の示すカイラリティ誘起スピン選択効果の観測も試みた。スピン偏極光電子シグナルは今のところまだ明瞭には観測されていないが、別の現象としてカイラリティ構造由来の螺旋光電子角度分布をはじめて観測した。以上のように、概ね計画どおりのスケジュールで順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
上述の様に放射光とレーザーの微小ビーム化については概ね目処が立った。しかし、今のところ圧力印加などの外場による効果が明瞭には観測されていない。最終年であるR5年度は目的である外場印加効果の明瞭な観測を実現し、相転移現象などの解明への手がかりを得る必要がある。R4年までに放射光での測定をすでに試みたが、R5年度にはより微小なビームで実験ができるレーザーを用いた装置の活用を開始し、明瞭な結果を得たいと考えている。また圧力印加などの外場印加試料ホルダーについても問題点を洗い直し、改良を行い、新型のホルダーの製作もR4年度中に完了している。本年度はこれらの新しいホルダーを用いて再度測定にチャレンジする。また、昨年度開始した電流印加によるカイラル物質が誘起するスピン偏極電流の観測についても測定ジェオメトリの改善や測定条件の工夫を行うことによりその原理究明を目指したい。また、副次的に発見したカイラル物質からの光電子分布が螺旋状になる現象については、その原因が表面構造による可能性を見出しているが、その仮説が本当かどうかの検証をさまざまな実験手段を用いて解明して行く予定である。 一方、最近外場として磁場を印加した光電子分光法が報告された。これまで磁場は電子の軌道を曲げるため光電子分光には最も相性の悪い外場であると考えられてきたが、工夫次第で磁場印加しながらの光電子分光測定が可能となりつつある。磁場印加スピン分解光電子分光は世界的にもまだ開発されていないことから、これについても挑戦し、磁場によるトポロジカル相転移現象にもアプローチしていきたい。
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