研究課題/領域番号 |
20H00403
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分37:生体分子化学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 高史 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (20222226)
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研究分担者 |
小野田 晃 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (60366424)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
44,980千円 (直接経費: 34,600千円、間接経費: 10,380千円)
2023年度: 10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
2022年度: 11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
2021年度: 9,490千円 (直接経費: 7,300千円、間接経費: 2,190千円)
2020年度: 13,260千円 (直接経費: 10,200千円、間接経費: 3,060千円)
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キーワード | ヘムタンパク質 / 光捕集系 / エネルギー移動 / 人工光合成 / 亜鉛ポルフィリノイド / 光補修系 / GFP |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、以下に示す項目を順次推進する。まず環状ヘムタンパク質6量体HTHPを用いて、ヘムを亜鉛ポルフィリノイドやクロリン類縁体に置換し、光捕集系の構造を模倣した人工アンテナ集積体を構築する。次に、様々な立体構造の集積体を構築し色素間のエネルギーマイグレーションの観測を実施し、光捕集能力を評価する。さらに、HTHPの中心空孔に金属錯体(触媒)を導入し、効率的に捕集した光エネルギーを利用して、金属錯体を介した物質変換(ヒドロゲナーゼモデルとしての水素発生や水の酸化等)を試み、光駆動型触媒反応への応用に挑戦する。つづいて、HTHPの集積体を金基板上に固定化し、デバイスとしての利用の準備を進める。
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研究実績の概要 |
近年、植物の光合成に関する作用機序が次々と明らかとなり、光合成の活性中心を模倣・応用する研究も盛んに実施されている。そのモデル研究の多くは低分子の色素を合成化学的・超分子化学的に集積させるアプローチである。本研究では、光合成初期過程の光捕集アンテナ組織に学び、これまで我々が精力的に実施しているヘムタンパク質人工集積化手法を駆使して、多数の色素をタンパク質マトリクス内に環状に配置した人工光捕集系の構築を実施している。当該年度は令和3年度に引き続き、green fluorescent protein (GFP)とチトクロムb562の人工的な集合化と、得られた色素タンパク質を用いた光駆動型エネルギー移動について研究を進めた。特にタンパク質間を収率良く安定なジスルフィド結合で集合化させるための手法開拓を確立し、光照射下によってGFPからシトクロムb562のヘムに効率的なエネルギー移動が生じ、GFPの蛍光が消光する系を構築した。またGFPの多量体の調製も達成し、集合体がゲル電気泳動と原子間力顕微鏡により、繊維状の構造体を形成していることを明らかにした。さらに時間分解偏向蛍光解消測定により、光捕集能として重要と考えられている同一色素間でのエネルギー移動が効率的に起こっていることも判明した。このように当該年度は、色素タンパク質の安定な組織化・集合化の手法を確立し、その構造体を用いたタンパク質間の光駆動型エネルギー移動を追跡し、人工的な光捕集系としての評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、昨年度に引き続き、安定なタンパク質複合体の構造を得るために、表面にシステイン残基を有する電子伝達ヘムタンパク質であるチトクロムb562変異体と緑色の強い蛍光を発するgreen fluorescent protein (GFP)を幾つか調製した。それぞれのタンパク質の表面の特定のアミノ酸残基をシステインに置換した変異体を調製し、2,2’-ジピリジルジスルフィドをシステイン末端のチオールの活性剤として用いることにより、様々な両タンパク質のジスルフィド結合を介した2量体を得た。次にGFPの色素部位への光照射によるチトクロムb562の補因子ヘムへのエネルギー移動を、蛍光スペクトルおよび蛍光寿命測定によって、詳細に検討し、距離とエネルギー移動効率の関係を考察した。一方、同様な手法でGFPのオリゴマーの合成も試みた。GFPのK25C/S174C二重変異体を用いてジスルフィド結合を介した集合体を調製した結果、ゲル電気泳動測定と、サイズ排除クロマトグラフィーのデータから、最大で平均7量体程度のGFPオリゴマーが得られることが判明し、その繊維状構造体を高速原子間力顕微鏡で直接観測することができた。さらに、得られたオリゴマーについて時間分解偏向蛍光解消測定を実施した結果、GFPの単量体や2量体に対して、GFPオリゴマーは顕著なアニソトロピーの二相減衰曲線が得られ、同一色素間での効率的なhomo-FRET(エネルギー移動)が起こっていることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は最終年度であるため、人工的な光捕集系の完成をめざし、次の2項目を中心に研究を展開する。 これまで、1次元(線維状)の色素含有タンパク質の集合化を行い、得られたタンパク質集合体での光励起エネルギー移動の観測を行った。したがって、次に2次元にタンパク質を集合化させるために、ヘムタンパク質6量体として知られているHTHP(hexameric tyrosine-coordinated heme protein) を用い、新しい光捕集系モデルの構築を図る。具体的には基板上にHTHPを集積化させるか、あるいは、HTHPを基点に放射状に色素タンパク質を直線的に伸長させる手法をとる。もう一つの光捕集系としては、以前、本研究代表者らが報告したHTHPの3次元ミセル状(球状)構造体をさらに改良する手法である。いずれも、HTHPに結合しているヘム(鉄ポルフィリン)を亜鉛ポルフィリンに置換することにより、同一色素間(タンパク質集合体内)での効率的なエネルギー移動を分光学的に観測する。さらにHTHPの表面に呈示したシステインのチオール基を反応点として金属錯体を化学修飾し、光エネルギー移動を介した触媒反応の駆動を検討する。たとえばスズポルフィリンなどを共有結合でHTHPのタンパク質表面に存在するチオール基に修飾し、エネルギー移動に基づく水素発生の検出を試みる。以上、色素タンパク質の集合化による新しい光捕集系モデルの提案と実際の光駆動型触媒反応への応用を行う。
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