研究課題/領域番号 |
20H00418
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分39:生産環境農学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤本 優 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (60554475)
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研究分担者 |
根本 圭介 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (40211461)
橋本 将典 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (20615273)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
44,590千円 (直接経費: 34,300千円、間接経費: 10,290千円)
2023年度: 10,010千円 (直接経費: 7,700千円、間接経費: 2,310千円)
2022年度: 10,530千円 (直接経費: 8,100千円、間接経費: 2,430千円)
2021年度: 10,530千円 (直接経費: 8,100千円、間接経費: 2,430千円)
2020年度: 13,520千円 (直接経費: 10,400千円、間接経費: 3,120千円)
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キーワード | イネ / プログラム細胞死 / 収量性 / 耐湿性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,イネの柔組織においてプログラム細胞死を誘導する遺伝子の機能解析や各種の農業形質に影響を及ぼす遺伝子座との照合を通じ,イネの収量形成や耐湿性に関わるプログラム細胞死の分子機構や生理生態的な役割を総合的に解明する。このことによって,イネの生理生態的過程の制御に関する理解が大きく深まることが期待できる。
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研究実績の概要 |
研究代表者は、ソルガムのD遺伝子(転写因子をコードし、茎のプログラム細胞死を誘導する)のイネホモログの機能を探究する過程で、茎から穂への貯蔵炭水化物の再移動や根の通気組織形成が、この遺伝子によって制御されていることに気づいた。これまでもプログラム細胞死が形態形成に果たす役割は多くの研究者によって明らかにされてきたが、作物の生理生態的特性の一部も、ある共通したプログラム細胞死のプロセスによって包括的に制御されている可能性がある。そこで本研究では、イネのD遺伝子によって制御されるプログラム細胞死のプロセスの詳細の解明や、収量性や耐湿性といったイネの生理生態におけるプログラム細胞死の役割の特定を目指している。 本年度においては、まず、イネのD遺伝子の機能を介した通気組織の形成が、地上部から根や根圏への酸素供給や根の生育に果たす役割を精査するため、イネD遺伝子の機能欠損変異が嫌気的環境での根の成長や生理状態に及ぼす影響を評価した。その結果、イネD遺伝子の機能欠損変異体では、野生型と比較して根からの酸素漏出が減少し、嫌気的環境における根の細胞活性や伸長量が低下すること、さらに、根系構造や根端部の転写プロファイルにも異常を生じることが判明した。これらの結果は、地上部から根・根圏への酸素供給や嫌気的環境での根の生育に、イネD遺伝子を介した通気組織形成が重要な役割を担っている可能性を示唆している。また、イネの生理生態的特性の品種間差に D 遺伝子を介したプログラム細胞死がどのように寄与しているかを検証するため、出穂期以降の茎の柔細胞を対象に、デンプン顆粒の蓄積程度や細胞壁の厚さなどの解剖学的形質を指標に遺伝解析を実施し、複数のQTLを検出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように、本年度においては、イネD遺伝子の機能欠損変異が根の成長や生理状態に及ぼす影響を精査することで、イネD遺伝子を介した通気組織の形成が、地上部から根・根圏への酸素供給や嫌気的環境での根の生育に重要な役割を果たすことを明らかにした。また、前年度の成果をもとにレポーターアッセイに取り組み、イネD遺伝子の発現部位を可視化することで、根の通気組織形成におけるイネD遺伝子の時空間的な発現パターンやその外部・内部刺激に応答した変化を特定した。このようなイネD遺伝子が制御するプログラム細胞死のメカニズムや、それが根の通気組織形成に果たす役割についての研究項目に関しては、順調に解析が進んでいる。一方、茎や根の柔組織のプログラム細胞死の実行に機能する、D遺伝子を軸とした遺伝子ネットワークの同定に関連した研究項目に関しては、イネD遺伝子の機能欠損変異体を用いたトランスクリプトーム解析などは概ね順調に進展しているものの、交雑集団を用いた遺伝解析については、形質評価の方法や対象部位を再検討し、形質値の再現性を確認したうえで、慎重に進める必要があるものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果により、根の通気組織形成におけるイネD遺伝子の関与を実証し、その生理的役割の一部を明らかにした。次年度においては、プログラム細胞死実行におけるイネD遺伝子産物の具体的機能や、それを中心とした遺伝子ネットワーク、また、通気組織を介した根端・根圏への酸素供給が根の無機栄養吸収や微生物叢の形成に果たしている役割の解明を目指し、下記の項目を中心に研究を進めていく。 ① D遺伝子の機能欠失がイネの生理生態的特性に及ぼす影響のさらなる検証:引き続き、D遺伝子を介したプログラム細胞死が炭水化物の再移動に担っている役割を精査するため、茎の柔細胞におけるデンプン顆粒の蓄積量に加え、細胞壁の厚さや成分などの茎の構造に関わる形質についても、野生型とD遺伝子欠損変異体との間で詳細な経時比較を行う。また、D遺伝子を介した根の通気組織形成が嫌気的環境でのイネの生育に果たす役割を検証するため、野生型とD遺伝子欠失系統との間で無機栄養吸収や根圏・根内微生物叢の特性などを比較する。 ② イネのD遺伝子がコードするタンパク質の機能解明:イネのD遺伝子がコードするタンパク質(イネDタンパク質)は、分子系統解析から、転写因子として機能する可能性が予見される。そのため、イネDタンパク質の転写促進活性やDNA結合活性を評価するとともに、野生型とD遺伝子欠失系統のトランスクリプトームの比較を通じ、D遺伝子の下流でプログラム細胞死の実行に関わる遺伝子ネットワークの同定を試みる。 ③ イネの生理生態的特性の品種間差におけるD遺伝子の寄与のさらなる検証:引き続き、登熟期の茎柔組織における炭水化物の再移動や、根の通気組織形成にみられる品種間差に、D遺伝子がどの程度寄与しているかを検証するための遺伝解析の実施に向けて、形質評価の方法などを再検討するともに、形質値の再現性を確認する。
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