研究課題/領域番号 |
20H00443
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分42:獣医学、畜産学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
稲波 修 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (10193559)
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研究分担者 |
平岡 和佳子 明治大学, 理工学部, 専任教授 (00212168)
安井 博宣 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (10570228)
平田 拓 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (60250958)
滝口 満喜 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (70261336)
岡松 優子 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (90527178)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
45,110千円 (直接経費: 34,700千円、間接経費: 10,410千円)
2024年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
2023年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2022年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2021年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2020年度: 13,520千円 (直接経費: 10,400千円、間接経費: 3,120千円)
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キーワード | 老化様細胞死 / がん / SASP / 放射線治療 / 化学療法 |
研究開始時の研究の概要 |
放射線や化学療法によるがん治療後の細胞死にはネクローシス(壊死)、アポトーシス、老化様細胞死、分裂期核崩壊などがある。このうち、老化様細胞死は炎症物質を放出するSenescence Associated Secretory Phenotype (SASP)という現象によって、炎症の増大、増殖促進や転移を引き起こし、かえって症状を増悪させる場合がある。本研究では放射線や制がん剤あるいはその併用治療で増大する老化様細胞死に対してセノリティック薬剤(老化様細胞の除去作用を持つ薬剤)を処理することで効率的にがん治療を誘引させるという新しいセノリティックテラピーを確立する研究である。
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研究実績の概要 |
放射線や化学療法はがん治療で広く用いられているが、 これらの処置による細胞死の中には老化様細胞死が増大する場合もあることが報告されており、これが炎症細細胞の浸潤や転移の増強を起こし、治療上の大きな問題となる。本研究は放射線や制がん剤で増大する老化様細死に対してセノリティック薬剤を処理することで効率的にがん治療を誘引させるという新しいセノリティックテラピーを確立することを目的とした。 本研究課題で、今までに多くのがん細胞に放射線や制がん剤で誘導される老化様細胞死がグルタミン合成酵素(GLS)阻害で有意に増加すること、更に、この増加にグルタミン代謝阻害によるエネルギー欠乏が関わっていることを明らかにしてきた。一方では子宮頸部がん由来HeLa細胞などではGLS阻害で放射線誘発老化細胞の有意な増大が起きない細胞もある。そこで、昨年度はGLSのみならず、グルタミン酸の窒素をピルビン酸に転移し、アラニンとαKGを形成する酵素であるグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ2(GPT2)も重要なグルタミノリシスに関わる老化様細胞死関連因子であるのではと考えた。事実、GPT2は老化を起こしにくいHeLa細胞では高発現しており、他のA549細胞などの老化を起こしやすい細胞では低発現であった。これにより、HeLa細胞ではGLSを阻害してもGPT2の働きでピルビン酸から効率よくα-KGの供給が出来て、細胞生存できると類推された。 さらに昨年度は、放射線誘発老化様細胞に対して効果的に老化様細胞を除去できる新たな標的として抗アポトーシスタンパク質として知られているサバイビンが有望であることを示した。具体的にはマウス頭頸部がん由来の培養細胞系で放射線照射やエトポシド処理によって起きる老化様細胞をサバイビン阻害剤YM155処理によって、非常に効率よくアポトーシスに変換できるということを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去4年間でヒト肺がんA549細胞、ヒト肺がんH460細胞、ヒト結腸がんHCT116細胞およびヒト非小細胞性肺がん由来NCI-H460細胞等のがん細胞を用いて、放射線照射によって多くの細胞で老化様細胞死が主要な細胞死であり、グルタミン培地での培養条件やグルタミン代謝阻害剤を阻害でさらにその増大が起きる事を見いだした。これは実際 栄養と細胞死の種類を決めるという新しい概念を示すものである。同時に一昨年のBCL2/BCL-XLや昨年度のサバイビンなどのアポトーシス抑制に関連する制御因子を標的とした分子を標的としたABT263やYM155などの阻害剤を処置することで放射線誘発の老化様細胞のアポトーシスによる排除を効率的誘導できることを明らかにした。これは治療上で老化様細胞による悪性事象を軽減できる方法として重要な発見であり、既に学会発表や誌上発表で公表している。老化様細胞死誘導のメカニズム解明の点で研究成果の進捗が少し遅れているが、昨年度はグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ2(GPT2)が新たな老化様細胞死誘導のキーとなるタンパク質である可能性を見いだしている。また、移植腫瘍モデルマウスを用いた実験ついても既に着手しており、放射線による老化様細胞死誘導とその制御がインビボでも起きうる結果を得ている。以上の進捗状況からあと、研究期間1年を残しているが、十分当初目的を達成できると予想され、おおむね順調に進展して いると評価している
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の重要な知見として放射線誘発老化様細胞死を起こしにくいヒト子宮頸癌由来HeLa細胞等のグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ2(GPT2)が、老化様細胞死を引き起こしやすい肺腺がん由来A549細胞等と比較して、その発現量が著しく大きいことから、このGPT2が有用な老化様細胞死の標的となる可能性を強く示唆する結果を得ているが、決定的な確証はない。そこで、本年度はこの仮説が正しいかどうか、RAS変異とグルタミン合成酵素(GLS)との関連も含めて、GPT2阻害剤アミノオキシ酢酸(AOA)やGLS阻害剤等を用いて、老化様細胞を起こしにくい細胞と起こしやすい細胞について比較・検討し、その分子機構を明確にする。これらは基礎的な実験となるが、今後のがんの多様性を考えた治療法開発で克服しなければならない問題であり、副作用を持たない細胞死に人為的に変更させる試みであることから非常に重要である。 本年度は、引き続き細胞レベルで多種類の細胞を用い、GLS以外の解糖系や脂質代謝に対する阻害剤を用いた検討を進めると共に、将来の応用に向けて、担癌マウスを用いて、放射線誘発老化様細胞死の誘導機構ならびにインビボでの老化様細胞除去が可能かどうか細胞生物学的手法や組織化学的手法を用いて検討する。更にはインビボの系で老化様細胞からのダメージ関連分子パター(DAMPS; damage-associated molecular patterns)によって誘引される炎症性サイトカイン(IL-6,IL-8、IL-1β,etc.)の産生、それに伴う全身の炎症応答による副作用についても検討を行い、それをABT263やYM155などの阻害剤処理で緩和できるか否かを明らかにすることにより、医療・獣医療への応用へ繋げる。これらの培養細胞とがん移植マウスを用いた研究で得られた結果を取りまとめ学会発表を精力的に行う。
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