研究課題
基盤研究(A)
生殖細胞系列は世代を越えた生命継承の要であり、その品質管理機構は発生学や生殖医学における重要な未解明問題である。胚生期に、特異なDNAメチル化プロファイルを獲得した卵母細胞は、支持細胞と密接に相互作用して原始卵胞を形成し、生涯に渡り激しい淘汰にさらされる。この過程では、卵子のもととなる卵母細胞が、支持細胞である顆粒膜細胞と密接に相互作用し、DNAメチル化を含むゲノムへの化学修飾に影響を与えながら、次の世代を発生させる準備を行うと考えられる。本研究では、卵巣の組織学的情報を得つつ、その組織切片から細胞を採取して遺伝子発現やDNAメチル化を単一細胞レベル解析する手法を開発し原始卵胞の淘汰過程を解析する。
本年度は凍結切片からの遺伝子発現解析法DRaqLを論文発表した。DRaqLとDNAメチル化の複合の拡張性を向上させるために、凍結組織切片のアルコール固定やホルマリン固定だけでなくパラフィン包埋した組織にも対応可能にした。また、溶解条件や切片の最適な作成条件が、組織によって異なることが分かったため、卵巣以外にマウス骨格筋に対してDRaqLによるcDNA増幅法(DRaqL-Smart-seq2)と、ホルマリン固定のための手法(DRaqL-Protease-Smart-seq2)に対する条件の幅を決定した。凍結切片では短時間の溶解で効率の良いcDNA増幅が可能であったが、FFPEではより長時間のプロテアーゼ処理や、キシレンによって徹底的に脱パラフィン処理をすることが必要であった。プロテアーゼ処理の時間の延長幅と、効率的な細胞の可溶化とRNAの保護を両立する反応温度の幅を決定した。またマウス卵巣を用いて新鮮な状態の卵母細胞と顆粒膜細胞を単離し1細胞ずつ単離回収して、一般的な単一細胞cDNA増幅(Smart-seq2)を行い、DRaqLを用いた切片からの1細胞RNA-seq(DRaqL-Smart-seq2)と比較して、切片からの1細胞解析の感度が、新鮮なまま単離した生の細胞に対する解析とほとんどそん色がないことを確かめた。これら、DRaqLのバリエーションに対応したDNAメチル化解析を、卵巣切片から行えるようにPBATによるライブラリ調製条件を検討した。PBATのライブラリ調製は、費用対効果と実験条件の検討の結果、開発者である三浦史仁博士(九州大学)が主宰する解析支援AMED BINDS「メチロームおよび多重エピゲノム解析の支援」と共同で進めることにした。マウス卵胞から、卵母細胞と顆粒膜細胞を切り出し九州大学に送付しライブラリ調製してどの程度の解析深度が出るかを解析する計画である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、DNAメチル化解析への複合適用性を向上させるための切片からの溶解条件、cDNA増幅法および、対象組織への適用性を拡大した。DNAメチル化解析のためのライブラリ調製法を決定し、実際の生殖細胞を用いた検討を開始した。これらの理由から本研究はおおむね順調に進行していると判断した。
前年度に緩和したDNAメチル化解析の実験条件に基づいて、卵巣切片から採取した細胞についてPBATで作製したライブラリをシークエンスして、実際の卵母細胞や顆粒膜細胞に対してどの程度の解析深度が達成されるかを解析し、トランスクリプトームと複合した、卵巣中の細胞形態との連関解析を行う。さらに卵巣オルガノイドを用いた動的なモニタリングとの複合解析も進める。
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