研究課題/領域番号 |
20H00567
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分59:スポーツ科学、体育、健康科学およびその関連分野
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
船戸 弘正 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 客員教授 (90363118)
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研究分担者 |
三好 千香 東邦大学, 医学部, 博士研究員 (60613437)
成清 公弥 東邦大学, 医学部, 助教 (70599836)
山形 朋子 東邦大学, 医学部, 助教 (90584433)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
44,590千円 (直接経費: 34,300千円、間接経費: 10,290千円)
2023年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
2022年度: 8,970千円 (直接経費: 6,900千円、間接経費: 2,070千円)
2021年度: 8,970千円 (直接経費: 6,900千円、間接経費: 2,070千円)
2020年度: 10,140千円 (直接経費: 7,800千円、間接経費: 2,340千円)
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キーワード | 睡眠覚醒 / 遺伝子改変マウス / リン酸化酵素 / 細胞内シグナル / 睡眠 / りん酸化酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
睡眠は動物に普遍的に認められ心身の健康に必須である。しかし、睡眠制御の分子機構は明らかになっていない。研究代表者らは新しい睡眠制御分子としてリン酸化酵素SIK3を同定しSIK3が睡眠必要量を規定する分子機構を構成していることを明らかにした。SIK1およびSIK2も同様に役割を持つことを明らかにしつつある。本研究ではSIK3がその下流分子と協働して睡眠必要量を決める仕組みを最新の知見と技術を用いて明らかにする。
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研究実績の概要 |
睡眠覚醒制御の実行回路を構成する神経細胞の働きを変化させる細胞内の仕組みは明らかではない。研究代表者らは順遺伝学的アプローチにより新しい睡眠制御分子、特に睡眠要求を調整する役割を持つ分子としてリン酸化酵素SIK3を同定した。Sleepy変異型のSIK3を発現すると睡眠が増大する。睡眠制御におけるSIK3の基質の同定が課題となっていた。培養細胞を用いた、遺伝子発現を指標とするアッセイにより、Sleepy変異型SIK3はヒストン脱アセチル化酵素HDAC4を介した転写抑制に関して機能獲得型の性質を示すことが明らかにされた。Sleepy変異型SIK3を発現するマウスの脳では、HDAC4によってリン酸化を受けるセリン残基のリン酸化レベルが亢進していた。大脳皮質ニューロン核内のHDAC4が減少していた。SIK3によるリン酸化を受けないようにセリン残基をアラニンに置換したHDAC4は培養細胞による検討でSIK3に対して機能的にも抵抗性を獲得する。睡眠に関してSleepy変異型SIK3とアラニン置換HDAC4はどのような相互作用を示すのか明らかにするため、過眠を呈するSleepy変異型SIK3マウスに、アデノ随伴ウイルスを用いてアラニン置換HDAC4を発現させた。その結果、ノンレム睡眠時間およびノンレム睡眠中徐波、つまり睡眠の量と質の両面で概ね正常化した。以上の結果は、SIK3がHDAC4をリン酸化することで核内のHDAC4が減少すること、核内HDAC4が減少するとHDAC4による睡眠促進遺伝子群の転写が低下すること、この結果睡眠が促進するというスキームを示している。HDAC4の阻害薬を脳室内投与するとノンレム睡眠中の徐波成分が減少した。以上の結果の一部をNature誌に発表した。このようにSIK3がHDAC4を基質とし、転写等を介して睡眠覚醒を制御していることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
年度当初の計画通りに、SIK3によりリン酸化を受けるHDAC4セリン残基(S245)をアラニン残基に置換するとノンレム睡眠時間や睡眠要求の指標であるノンレム睡眠中脳波徐波成分が大幅に減少した。HDAC4floxマウスを用いて興奮性ニューロンのみでHDAC4を欠失させたところノンレム睡眠時間が増加し、ノンレム睡眠中脳波徐波成分が増大した。ルシフェラーゼアッセイにより、Sleepy変異型SIK3はHDAC4を介した転写抑制に関して機能獲得型の性質を示すことが明らかにされた。in vitroの結果に対応するように、SIK3(Sleepy)脳では顕著にS245のリン酸化レベルが亢進し、大脳皮質ニューロン核内のHDAC4が減少していた。ルシフェラーゼアッセイでは、SIK3はHDAC4 S245A蛋白に対して作用を及ぼせない。つまり、HDAC4(S245A)はSIK3に対して抵抗性である。睡眠に関するSIK3とHDAC4の遺伝学的相互作用を明らかにするため、過眠を呈するSleepy変異型SIK3マウスに、アデノ随伴ウイルスを用いてHDAC4(S245A)を発現させたところ、睡眠覚醒は時間と深さの両面で正常化した。以上の結果は、SIK3がHDAC4をリン酸化することで核内のHDAC4を減少させ、核内HDAC4による睡眠促進遺伝子群の転写が低下することで睡眠が促進するというスキームを支持する。HDAC4の阻害薬を脳室内投与するとノンレム睡眠中の徐波成分が減少した。北京生命科学研究所Liu教授との共同研究により、トランスクリプトーム解析やChIP-seqを用いて標的遺伝子の同定も進展した。以上の結果の一部をNature誌に発表した。このようにSIK3がHDAC4を基質として転写等を介して睡眠覚醒を制御していることを示すことができ、計画を超える進展が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
HDAC4floxマウスを用いて、Creドライバーマウスやアデノ随伴ウイルスを用いて睡眠要求を司るニューロンタイプをさらに限定していく。SIK3-HDAC4経路による個体レベルの睡眠制御機構を明らかにするために、脳部位特異的にSIK3下流シグナルや標的遺伝子を改変させて睡眠恒常性責任神経集団の活動性の変化を検討する。他のクラスII HDACを用いた検討も進める。アデノ随伴ウイルスを用いた候補遺伝子のノックダウンや阻害剤を用いた検討を行い、異なるタイムスケールでの効果を検討する。異なる睡眠要求水準での脳部位ごとの遺伝子発現を検討するためRNA-seqまたはシングル核RNA-seqを実施し、睡眠恒常性制御の分子的基盤となる分子群とのその発現機構変化を検討する。
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