研究課題/領域番号 |
20H00588
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分60:情報科学、情報工学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
青木 百合子 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (10211690)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
45,370千円 (直接経費: 34,900千円、間接経費: 10,470千円)
2022年度: 13,130千円 (直接経費: 10,100千円、間接経費: 3,030千円)
2021年度: 14,820千円 (直接経費: 11,400千円、間接経費: 3,420千円)
2020年度: 17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
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キーワード | 量子化学 / 理論化学 / 電子状態 / マルチスケール / 粗視化シミュレーション / 散逸粒子動力学法 / Elongation法 / 相分離シミュレーション / 励起状態 / 高分子 / 結合解離 / 高分子設計 |
研究開始時の研究の概要 |
計算科学分野におけるシミュレーションは、量子化学的扱いによるミクロな電子状態と、定性的なマクロ物性を狙う粗視化動力学などが、別世界で展開されている。しかしそれらをつなぐマルチスケールな汎用計算手法は世界的にも存在しない。申請者らが開発してきた超効率的かつ超高精度Elongation法の理論や技術を高度化し、分子動力学法や粗視化モデルと連成することによりメソスケールに拡張する。さらにElongation法により効率的に算出できる多くのデータを活用したニューラルネットワーク(NN)法を実行するELG-NN法を構築し、汎用性の高い高分子物性予測のためのマルチスケール量子シミュレータを構築する。
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研究実績の概要 |
初年度の成果として、たとえばポリエチレンに対して芳香族をもつ置換基が付加している一次元的な高分子の場合は、励起エネルギーおよび振動子強度共に、全体をまるごと扱う従来法を用いた結果をよく再現することを小さなモデル系に対して確認し、さらにより大きな高分子に対しての適用性について検証する。その際、末端原子を除去して新しい結合形成をさせるが、技術的な問題として、取り除いた原子軌道数に対応する不要な領域局在化分子軌道の一部を除去する必要が出てくる。その場合のより効率的なアルゴリズムを構築し、複雑高分子一般に利用できるように整える。結果の妥当性や効率性を確認後、実際に光解離反応メカニズムを検証した高分子系の光吸収について、定量的なスペクトルを算出できるかどうかのテスト計算を行い、検証を重ねながら一般化に向けた展開を行う。 高精度量子化学計算を導入したメソスケールへの拡張として、研究代表者ら独自のオーダーN法-Elongation法-と散逸粒子動力学(DPD)法および分子動力学(MD)法を結合し、様々な系に適用することにより、その精度と効率性等に一般性があるかどうか技術的に検証し、それらの確認を行いながら並行して、現実のソフトマターに対して、よりマルチスケールに向けた展開を行う。その際、水和エネルギーを必要とするが、ミクロな物理量であるため、Elongation法に溶媒効果の手法を導入したElongation-PCM法を導入し、得られる水和エネルギーをDPD法に利用する方法が考えられる。ターゲットとして二酸化炭素の吸着のための分離膜設計への応用性について検証し、実験で得られている結果を再現できるかどうかについて検証を行う。一方、ミクロな反応解析として、小分子と高分子の吸着反応解析も並行して行い、最低活性化エネルギーが与えられた遷移状態経路を用いてマルチスケール計算への適用性も検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度から引き継き、光吸収スペクトルの領域局在化分子軌道を基底とした効率的計算法は完成している。一方、本手法の応用として事前計算を行っている反応吸着や結合解離についても順調に進んでおり、劣化原因となるC-O結合やC-N結合解離を抑える分子設計においては興味深い知見を得ている。 主テーマであるマルチスケール計算法の展開については、多成分ポリマー系やソフトマテリアルのメソスケール内部構造を把握するための量子化学~動力学の結合を行った。手法としては、非周期性ポリマーを計算するための第一原理オーダーN法である研究代表者ら独自のElongation法と、粗視化シミュレーションの中でも成分間の相溶性や相分離解析が可能な散逸粒子動力学(DPD)を結合する方法を採用した。ただし、DPD法において、粗視化ビーズ間の反発パラメータについては、様々な決定法が提案されているものの確立した方法はない。そこで、水和エネルギーとDPD反発パラメータを結ぶValdivia-Jaime式によるDPDシミュレーションを組み合わせ、巨大系の電子状態を超高速・高精度で計算可能にするElongation(ELG)法をDPD反発パラメータ算出に利用した高精度粗視化シミュレーション法の構築を行った。ELG-DPD法の有効性検証のため、アミン含有二酸化炭素分離膜の相分離による膜劣化の解析に適用した。ELG-DPD法によって得た2-(2-aminoethylamino)ethanolとポリビニルアルコールPVAの結果からアミンの球状島構造が発生しており膜性能劣化につながる可能性を示した。ジアミンとモノアミンにおける等値面から、第二級アミンが相分離を抑える効果を持つこと、二級アミンの比率低下により相分離が抑えられ混合が進むとともに、CO2吸着の増大につながることが明らかとなり、実験事実を再現していることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
検証するターゲットの例として、シリコーンゴム系に注目した。特にコンタクトレンズの材料として実用化されているシリコーンとハイドロゲルの相分離と、酸素透過性との関連は未解明で、本手法の妥当性を確認するターゲットとして興味深い。ミクロレベルで未解明な部分が多く、相分離状況と分子透過性の関係に関するメカニズムを解明するための計算手法を構築することは実用面でも重要であり、産業上有益である。このような問題を解明するためには、本ELG-MD法は計算手法として極めて有効であり、すでに構築したElongation-DPD法の応用としてELG-粗視化MD法の構築を推進する。粗視化MD実行後に各原子の構造を逆算して全原子MDを行い、注目すべき構造に対してElongation-PCM法を活用し、マクロ情報からミクロ情報に細分化していく方法を構築する。これにより、メソスケールで最適化された状態下でミクロ計算が可能となり、そのミクロ構造を元にして、系全体を粗視化シミュレーションでグローバル環境を再計算し、再度ミクロな電子状態レベルに戻って構造機能を解明する、という循環的マルチスケール法の展開を方策とする。 上記循環的マルチスケール法を用いて、最終的に分子レベルで解明する必要のある系の比較的広い領域を取り出し、これまで構築してきた領域局在化分子軌道を基底とした励起状態計算法あるいは局所振動解析法を導入する。これにより、系の注目部分の光劣化や熱劣化のメカニズム解明が可能となり、ひいてはタイヤ等のゴム材料の劣化メカニズム解明、劣化を阻止する分子設計につながると考えている。さらに、量子化学における電子状態をマクロスケール下で最適化しながら、Elongation法のオーダーN特徴を生かして膨大なサンプルを高効率に処理するビッグデータ処理に加えて機械学習を取り入れ、新規な高精度マルチスケール材料設計法を構築する。
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