研究課題/領域番号 |
20H00659
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分90:人間医工学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安達 泰治 京都大学, 医生物学研究所, 教授 (40243323)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
44,460千円 (直接経費: 34,200千円、間接経費: 10,260千円)
2024年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2023年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
2022年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
2021年度: 13,520千円 (直接経費: 10,400千円、間接経費: 3,120千円)
2020年度: 6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
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キーワード | 骨 / マイクロ損傷 / バイオメカニクス / 多階層力学 / 数理工学 |
研究開始時の研究の概要 |
高齢者に多くみられる骨粗鬆症等の骨疾患は、骨折リスクを高め生活の質の低下をもたらすため、適切な予防・治療が望まれる。しかしながら、骨の細胞活動の破綻や薬の作用(生物・生化学的因子)と運動・リハビリ(力学的因子)との関係は複雑であり、これらをシステムとして理解することが重要となる。そこで本研究では、細胞が骨のマイクロ損傷を感知し、さまざまなシグナル分子の伝達を経て、組織レベルの修復・リモデリングへと至る過程を力学を用いて理解することを目指す。これにより、骨の骨折予防・治療における治療薬と運動・リハビリの適切な相乗的効果を予測する新しい方法を探る。
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研究実績の概要 |
高齢者に多く見られる骨粗鬆症等の骨疾患は、骨折リスクを高め生活の質を低下させることから、適切な予防・治療法の確立が望まれる。しかしながら、力の作用により生じる骨損傷の蓄積と各細胞による損傷感知・修復過程とのバランス破綻など、すなわち、運動などの力学的因子と治療薬作用などの生物・生化学的因子との連関を理解することは容易ではない。そこで本研究では、分子・細胞レベルの骨マイクロ損傷感知とシグナル伝達から組織レベルの修復・リモデリングに至る現象を多階層力学の観点から理解することを目指した。ここでは、骨細胞のマイクロ損傷感知とリモデリングによる修復について、実験・数理バイオメカニクスの融合的研究を進め、複雑な骨システムにおける力学・生化学カップリング現象の理解を深めた。また、骨折予防・治療における適切な運動・リハビリと治療薬投与の連成効果を予測するための新たな手法について検討した。 まず、マイクロ損傷に駆動される骨リモデリングの数理モデルとして、日常的な荷重下におけるマイクロ損傷の蓄積を損傷力学に基づいて表現する発展式を示し、マイクロ損傷により誘導される骨細胞アポトーシスを表現した。この数理モデルを圧縮荷重下における二本の単軸部材に適用し、基本的な特性を検討した。次に、骨組織の連続した超薄切片を用いたSEM観察により、組織中の骨細胞の細胞体・細胞突起周囲の微細構造、および、細胞核内部の構造を観察した。さらに、in vitro実験系構築を目指して、コラーゲンゲル内における骨細胞ネットワーク構築の様子を観察し、その観察条件の検討を進めた。その結果、深さ方向の細胞突起の詳細な構造観察のための新たな実験系構築の構想を得るに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、骨のマイクロ損傷感知と骨リモデリング・修復機構の解明を目指し、骨のマイクロ損傷数理モデルの検討、および、骨細胞ネットワークの構築とその観察を進めた。 1)マイクロ損傷に駆動されるリモデリングの数理モデル化(in silico 実験): 日常的な荷重下において、マイクロ損傷が蓄積される骨の状態変化を損傷力学の手法を用いてモデル化した。ここでは、骨における損傷変数の定義やその発展式を新たに提案した。また、マイクロ損傷により誘導される骨細胞アポトーシスを数理モデル化した。特に、損傷変数とアポトーシスの関係式、および、破骨細胞分化誘導の時間・空間発展モデルを新たに提案した。ここでは、マイクロ損傷によって誘導された破骨細胞が、リモデリング回転のトリガーとなり、骨の修復が開始する現象を数理モデル化することができた。特に、マイクロ損傷の蓄積に伴う骨の弾性係数の低下や破壊など、構造・材料力学的観点から、単軸圧縮荷重下における二本の弾性棒を用いた考察を行った。 2)三次元ゲル培養中の分化骨細胞ネットワーク構築(in vitro 実験): まず、マウスの骨組織中における骨細胞ネットワークの微細構造観察を行った。ここでは、超薄切片に対して、蛍光顕微鏡およびSEMを用いることにより、骨細胞の細胞体・細胞突起周囲の微細構造を観察した。次に、コラーゲンゲル内部の骨細胞ネットワーク構築手法を用いて、骨細胞へと分化しながら細胞間ネットワークを形成していく様子をin vitro観察した。特に、離散的に分化する過程において形成される細胞突起ネットワークの形成の様子を観察し、さらに、ネットワークを介した蛍光分子の拡散現象の観察により、細胞突起同士の直接的な結合を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、昨年度まで推進してきた研究をさらに継続し、in silico数理実験とin vitro細胞実験との融合アプローチを発展させる。 1)骨のマイクロ損傷発展とターゲットリモデリングの三次元モデル化(in silico 実験): 一次元の単純モデルにより基礎的な挙動を確認した骨のマイクロ損傷発展・修復の数理モデルを三次元モデルへと展開する。荷重に対して蓄積する骨のマイクロ損傷発展の数理モデル化を行い、三次元ボクセル有限要素法にこれを導入することにより、複雑な構造をもつ海綿骨の損傷発展をシミュレーションする。同時に、マイクロ損傷により誘導される破骨細胞の活性化(ターゲットリモデリング)の数理モデルを導入し、リモデリング回転による骨の損傷修復過程をシミュレーションする。さらに、骨細胞の数密度低下に伴うメカノセンシング能力の低下とターゲットリモデリングによる骨修復のバランスに影響を及ぼす因子について検討する。 2)骨組織・三次元培養ゲル中の骨細胞のネットワーク構築(in vitro 実験): 骨基質内に存在するメカノセンサー骨細胞の微細構造観察を継続すると共に、これまで構築してきたコラーゲンゲル内の三次元骨細胞ネットワークモデルを発展させる。まず、荷重骨であるマウス大腿骨の組織中における骨細胞ネットワーク、および、骨細胞の微細構造観察を行う。超薄切片を用いることにより、骨細胞の細胞体・細胞突起周囲の微細構造を明らかにすると同時に、原子間力顕微鏡を用いて細胞質内・核内の微細構造とその力学特性について観察・評価する。次に、コラーゲンゲル内部の骨細胞ネットワーク構築手法を改良し、前駆骨細胞から骨細胞への分化過程における細胞形態変化や細胞間ネットワーク形成の様子を観察するための新たなマイクロデバイスの作製により、in vitro実験系の改良を行う。
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