研究課題
奨励研究
日本産ゴキブリ類は, これまでに約60種が記載・報告されている。約10種が病原微生物を媒介する衛生害虫種として知られている一方で, 多くの種は, 森林生態系において腐敗植物の分解者として物質循環に重要な役割を果たしている。近年, 衛生害虫種の人為的な分布拡大が報告されているが, 森林棲ゴキブリ類の地理的分布や生態学的研究はほとんど行われていない。本研究では, 九州北部のゴキブリ相を明らかにすることで, 衛生学的脅威や森林生態系の解明に寄与することを目的とする。
本研究の結果,新たに3種のゴキブリ類の分布が明らかとなり,14既知種となった。森林性種として,サツマゴキブリとキスジゴキブリの2種の分布が明らかとなった。サツマゴキブリは離島部にも侵入しており,住民からの聞き取り調査の結果も踏まえると,離島部の本種については人為的な侵入の可能性が高いことが示唆された。一方,衛生害虫種であるワモンゴキブリを福岡市中心部および,福岡市東区において確認することができた。捕獲することはできなかったため,標本を得ることはできなかったが,前胸背板の特徴的な模様から本種であると考えられる。
森林性ゴキブリ類は,森林生態系の重要な分解者であるが,本県でのゴキブリ相はほとんど明らかとなっていない。多様な種が共存することにより森林生態系が維持されていることを明らかにするためにも,今後も分布調査を行っていく必要がある。九州北部の長崎県対馬島では,外国人の観光客の増加にともない,海外からの積荷に外来種が混入することも予想される。対馬には固有昆虫種も知られていることから,外来種の侵入による生態系の破壊も懸念される。今後の展望としては,九州本土部だけではなく,周辺離島のゴキブリ相も明らかにすることで森林生態系の保護に寄与すると考えられる。