研究課題/領域番号 |
20H01401
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
根本 達 佛教大学, 社会学部, 准教授 (40575734)
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研究分担者 |
鈴木 晋介 茨城キリスト教大学, 文学部, 教授 (30573175)
関根 康正 京都精華大学, その他の部局, 研究員 (40108197)
志賀 浄邦 京都産業大学, 文化学部, 教授 (60440872)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2020年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 宗教人類学 / 南アジア地域研究 / アンベードカル / 佐々井秀嶺 / ダリト / 南アジア研究 / インド仏教徒 / 反差別運動 / デジタル・アーカイブ / 仏教徒運動 / デジタルアーカイブ / ダリト研究 |
研究開始時の研究の概要 |
管理社会を生きるマイノリティへの暴力性が顕在化する現在、これを乗り越えるために「マイノリティとの異種協働」を選択する現実も生まれつつある。本研究はインドの被差別民ダリト(元不可触民)を対象とし、現地調査と佐々井秀嶺保存史料の分析に取り組む。「不可触民の父」アンベードカルの死去後(ポスト・アンベードカル)の不可触民解放運動において、差異を自己尊厳として肯定する社会倫理が生み出されている点を考察する。
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研究実績の概要 |
根本は「アンベードカルによる三つの歴史的選択」のうち「不可触民アンベードカルによるバラモン女性との再婚」を考察した。人類学や南アジア研究の結婚をめぐる議論をレビューし、インドで恋愛結婚をしたカップルへのインタビューを行った。同時にインドと日本で佐々井秀嶺保存史料のデジタル・アーカイブ化に取り組み、佐々井へのインタビューも実施した。これにより自己と他者の変容から生まれる萌芽的倫理を検討し、その成果を論文“Becoming Dalit”として発表した。 関根は徳島県三好郡東みよし町を中心に被差別民が担ってきた正月の門付け行事〈三番叟・えびすまわし(デコ回し)〉が、辻本一英氏を中心にした「阿波木偶箱まわし保存会」の手でこの20年間で地域文化として再復活を遂げてきた模様に注目し、2023年旧正月の時期に門付け儀礼を実地調査した。差別されつつ担ってきた門付け芸が、衰退の危機を超えて価値ある地域文化として現代の文脈の中で再興されている現実を把握できた。 鈴木は「佐々井秀嶺史料」に基づく佐々井の思想形成に関する分析と資料のデジタル・アーカイブ化作業に取り組んだ。資料分析では佐々井渡印1年目(1967-68年)の手記(ノート16冊分)の整理を中心に行うとともに、これまで刊行されている佐々井に関する書籍と一次資料との関係性を分析した。デジタル・アーカイブ化作業では年譜作成および先行的に公開する手記(6編)の選定とデジタル入力を行った。 志賀はアンベードカルの宗教観及び仏教観の前提の一つとなったと考えられる、欧米留学時代の西洋近代的価値観・思想との遭遇について考察した。特にアメリカ・コロンビア大学時代にジョン・デューイを通じて触れたプラグマティズム哲学とアンベードカルの言説の関係を明らかにした。その成果は、論文「〈プラグマティズム〉という視座から見たインド仏教」として2023年3月に公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍による困難な時期を乗り越え、根本は2023年3月にインドで現地調査を行い、異カースト間結婚をしたカップルや佐々井秀嶺へのインタビュー、佐々井保存史料のデジタル化作業も実施できた。2022年8月と2023年3月には佛教大学で研究会を開催し、それぞれの研究を深めた。8月に倉敷市の一心念誦堂と佛教大学、9月に茨城キリスト教大学、11月に佛教大学と神戸市の明泉寺でデジタル・アーカイブ化作業を実施できた。 関根は被差別民が担った門付け芸デコ回しが1990年代からの保存会の活動によって民俗文化として地域に甦るという、福をもたらす予祝儀礼の力が差別意識を無効化する現実生成を目撃できた。近代の差別意識が分断した地域社会を、その被差別の側からの活動が繋げなおすという「下から地域創造」運動になっている点が重要で、深い人権問題への取り組みとして被差別問題一般への重要な示唆を持つ。インド被差別民の解放運動とも比較できる。 鈴木は佐々井史料の整理・読解とデジタル・アーカイブ化作業を通じて、佐々井の思想形成プロセスの実証的解明を着実に進めた。日本山妙法寺王舎城道場時代(1967-68年)の経験と思索が、後にアンベードカルの不可触民解放運動へと身を投じていく佐々井の思想的、実践的な礎を成している点が史料から看取された。佐々井思想と近代日本における日蓮系仏教の思想展開との接続の検証という重要課題も確認された。 志賀は「アンベードカルによる三つの歴史的選択」のうち2022年度も「欧米への留学」について考察した。アンベードカルがコロンビア大学留学中に接した西洋的価値観の中で最たるものは、当時ジョン・デューイらによって提唱されていたプラグマティズム思想であったが、それをインド仏教史という文脈の中でどのように位置づけられるかという問題も考究した。2022年度末にこれらの研究成果を発表することもできた。
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今後の研究の推進方策 |
根本はアンベードカルがカースト差別撤廃の方法として「異カースト間結婚」を実践した事実に引き続き注目する。インドのナーグプルと近郊農村でカップルへのインタビューなどの現地調査を行い、それに分析を加える。同時にインドと日本で佐々井の手記や写真、動画のデジタル化と分析を行い、佐々井の思想と実践を考察する。これらの二つの取り組みから自己と他者の協働が生み出す新たな社会倫理を論じる。また国内で定期的に研究会を開催する。 関根は2023年度に徳島県の門付け儀礼の復活事例を継続調査するとともに、被差別問題のもう一つの現実局面として、徳島市内の旧部落地区に立地する肥料工場の悪臭問題を手掛かりに身体的な感覚イメージ論の観点から差別問題の地域的受容の可能性について考究する。また南インドでの自立的なダリト政党の誕生からの変遷に関して追加取材し、ダリトをめぐる解放の政治文化の在り方を「非差別」という深い視点で探索する。 2023年度も鈴木は佐々井資料の読解を通じた思想形成の実証研究を資料デジタル化と平行して進める。思想形成の分析では、王舎城道場時代の佐々井のインド観の形成とナーグプル入り後のアンベードカル思想との邂逅を史料の分析を通じて跡づけることを主眼とする。資料のデジタル入力も引き続き作業協力者を手配して進め、デジタル・アーカイブに順次アップするとともに大学紀要等の媒体を通じた資料集としての公開を試みる。 志賀は昨年度、アメリカの思想家ジョン・デューイの思想(主にプラグマティズム)がアンベードカルの言説や活動にいかなる影響を与えたかを明らかにしたが、2023年度はヨーロッパでの留学経験に目を転じ、イギリス及びドイツ滞在中に触れた思想や価値観の影響について考察したい。このように対象領域を拡大することにより、アンベードカルの思想形成・仏教観の形成のプロセスについてより多角的な視点から考察できる。
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