研究課題/領域番号 |
20H01568
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 福知山公立大学 (2022-2023) 京都大学 (2020-2021) |
研究代表者 |
大門 大朗 福知山公立大学, 地域経営学部, 准教授 (20852164)
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研究分担者 |
高原 耕平 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構, 人と防災未来センター, 研究員 (10844566)
宮前 良平 福山市立大学, 都市経営学部, 講師 (20849830)
中野 元太 京都大学, 防災研究所, 助教 (90849192)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2021年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2020年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 集合的トラウマ / 自然災害 / アメリカ / メキシコ / アクション・リサーチ / 災害 / 防災 / 記憶 / 伝承 / 南海トラフ巨大地震・津波 / 東日本大震災 |
研究開始時の研究の概要 |
災害が地域社会にもたらす集合的トラウマとその影響に着目し、文化的な差異と、災害がもたらすトラウマの個人モデルとの異同から、集団性・歴史・文化を踏まえたトラウマの集合モデルとベターメントに向けた介入の実践的手法を提示することを目的とする。本研究は、災害を経験している「にもかかわらず」防災ができないことを問うのではなく、経験している「がゆえに」かえって排除される語りや強化される語りがコミュニティに与える影響を問いうことで、将来の防災実践へとつなげる研究である。
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研究実績の概要 |
本研究は、大災害が地域社会にもたらす人びとの集合的なトラウマとそれによって排除・強化される語りに着目した3段階のフィールド研究を推進し、その理論的検討から、トラウマの集合モデルを提示することを目的とするものである。本年度の概要は以下の通りである。 【研究1・2】量的調査:日本の災害に加え、ハリケーン・カトリーナ、メキシコ地震についての新聞記事のデータの整理を行い、強調されるキーワードを把握した。質的調査:当該年度は、岩手県野田村へのフィールドワークを行い、被災写真のアーカイビングをしながら語りにならない記憶の継承について民族誌的調査を継続した。黒潮町においても、避難訓練の取組み等を進め、昭和南海地震(1946年)の体験を聞き取り、集合的トラウマに関する検討を進めるうえでの基礎資料を整理した。 【研究3】アクションリサーチ:岩手県野田村と未災地である高知県黒潮町の防災の担当者との協力関係を構築した。集合的トラウマの「治癒」に向けた実践として、岩手県野田村で10月に行われた村民避難訓練に参加し、調査を継続した。また、メキシコ・シワタネホでのフィールドワークを実施した。防災実践について関係者(行政、学校教員、地域住民)にも説明を行い、協力関係を形成した。そのうえで、「津波の絵コンクール」を始めとする防災実践を行った。 【研究4】集合的トラウマの理論研究として、自然と人間の関係を主題とした文献研究を進めた。第一に、反復する自然災害に対する科学技術と人間のありさまを描いた宮沢賢治『グスコーブドリの伝記』の解釈を行った。第二に、寺田寅彦の自然=災害観を解釈し、彼の悲観主義的態度を超える方策を検討した。さらに研究1~3の成果を踏まえ、研究会を合計6回実施し、特に集合的想起の側面に着目した文献講読、フィールド研究をもとにした研究発表・議論を行い、集合的トラウマのモデルに関する議論を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、研究3(集合的トラウマのアクションリサーチ)を主に進め、最終年度の取りまとめに向けて研究を継続した。具体的には以下の通りである。 【研究3】国内:①野田村においては、毎月開催される被災写真のアーカイビングプロジェクトに参加し、語りにならない記憶の継承について民族誌的調査を行った。その結果、被災写真の返却に携わるボランティアたちが写真を所有しているわけではないことから生じる問題に着目し、自分のものではないものを預かり続けることの異議と課題という研究視座を得た。②黒潮町では、住民を対象とした避難訓練や1946年に発生した昭和南海地震の体験の聞き取り調査を行った。同地震・津波を体験している現在80歳代以上の高齢者の体験談を記録した。これら体験を持っている高齢者も含めて、避難訓練や非常持ち出し袋の確認、非常食の試食会等の取組みを行っており、こうした防災実践と昭和南海地震の体験への見方の変容、あるいは南海トラフ地震・津波に対する態度の変容を検討しつつある。海外:メキシコ・シワタネホでの現地調査を実施し、シワタネホの生徒らが持つ地震・津波に対する捉え方を明らかにし、同地域で防災実践を推進していくことを目的として、現地行政と連携して「津波の絵コンクール」を開催した。 【総合研究=研究4】トラウマの集合モデルの理論研究として、大きく3つの観点から研究を進めた。第一に、文化的トラウマの概念についての文献渉猟を行い、社会構築主義および日本との文化的トラウマとの違いから考察を行った。第二に、九鬼周造、宮沢賢治、寺田寅彦などの文献を足がかりに、現代の文脈まで続く日本国内の集合的トラウマの社会的・文化的背景について考察を深めた。以上を踏まえ、「命を救うための防災を推進すべきだ」という正攻法の防災によって、多様な防災の物語を紡ぎ出すことが困難な状況が日本社会に見られていることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2023年は、研究3(集合的トラウマのアクションリサーチ)と研究4(トラウマの集合モデルの理論研究)を進め、研究を取りまとめる予定である。具体的には以下の通りである。 【研究3】被災地として岩手県野田村、未災地として高知県黒潮町を取り出し、被災地間の交流を行い、双方の集合的トラウマに関わる規範の変化を記述し、集合的トラウマが「治癒」していくための住民による実践手法を提案する。次年度では、黒潮町においても、昭和南海地震の体験を持つ住民らも含めた防災アクションリサーチを継続し、南海トラフ地震・津波の想定への住民らの語りにも注目しながら、集合的トラウマの様相を明かにするとともに、その治癒に向けた実践を進める。さらに、メキシコにおいて量的・質的アプローチをとり、国際比較も進める。具体的には、メキシコにおいて災害報道がどのような語りと共に共有されてきたのかをテキストマイニングによって検討する。また、シワタネホと津波被災体験を持つ地域との防災教育交流を通して、集合的トラウマに関する規範がどのように変化していくのかを観察し、集合的トラウマが治癒していくための手法を検討する。この視座から集合的トラウマ論およびその治癒過程について、被災地と未災地、日本とメキシコを比較しながら検討する予定である。 【研究4】集合的トラウマの発生と回復の土台と考えられる「自然」と人間の関係について、第一に自然災害の反復という点、第二に、「環境」についての基礎的な文献研究を進め、居住地における災害前後の環境形成が住民等にとって持つ意味を検討する。さらに、上記の研究3での成果を踏まえ、多様な災害の経験や防災が本来護ろうとしている日々の暮らしを捨象しない、防災の回路を複線化する集合的トラウマのアプローチについて検討する。
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