研究課題/領域番号 |
20H01826
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹内 一将 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50622304)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2022年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2020年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 非平衡界面ゆらぎ / スケーリング則 / 大偏差 / 液晶 / KPZ普遍クラス / 非平衡ゆらぎ / Kardar-Parisi-Zhang普遍クラス / 界面 / 重点サンプリング法 |
研究開始時の研究の概要 |
ゆらぎには一般に、多くの標本で見られるような「典型的な」ゆらぎと、稀にしか現れない異常に大きなゆらぎがあり、後者を「大偏差」と呼ぶ。弱くしか相互作用しない自由度からなる系の場合、典型ゆらぎは通常、大数の法則と中心極限定理によって支配され、大偏差の性質も比較的よく理解されている。しかし、相互作用の強い多自由度系のゆらぎは、典型ゆらぎでも非自明であり、大偏差はさらに難しい。本研究は、強い相互作用を有し、典型ゆらぎの性質が例外的に深く理解されている界面成長の非平衡ゆらぎについて、液晶系において重点サンプリング法という手法を実装することで、大偏差の実験計測を目指すものである。
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研究実績の概要 |
Kardar-Parisi-Zhang (KPZ) 普遍クラスの大偏差計測を目指し、本年度は主として以下の3項目について研究を推進した。(i) 完全非対称単純排他過程 (TASEP) におけるKPZ大偏差の初期条件依存性に関する研究 (ii) クローン法の実験実装手法改善 (iii) 液晶乱流の物性や液晶トポロジカル欠陥の動力学法則の研究。 (i) TASEPにおけるKPZ大偏差の初期条件依存性に関する研究。前年度に引き続き、KPZクラスの代表的な可解模型であるTASEPを用いて、我々が提案するクローン法によってKPZ大偏差を計測した。前年度は、標準的な大偏差スケーリングを示す負の大偏差について本手法の有効性を主に確認したが、本年度は正の大偏差についても、特有のスケーリングを考慮に入れた解析によって計測可能であることを示した。本年度はさらに、これまで用いてきたステップ初期条件に加え、平面初期条件、定常初期条件についても計測を実施し、母関数の初期条件依存性についても示唆的な結果を得た。さらに、数値計算コードを最適化し、大幅な高速化に成功した。 (ii) クローン法の実験実装手法改善。本手法の液晶実験系での実装では、取得した顕微鏡画像をリアルタイムで解析し、クローン生成に用いるデータを自動作成して、それを初期条件とする乱流界面をレーザーホログラフィ技術によって生成する、一連のステップを迅速に行うことが肝要である。本年度はこの迅速化の検討を進めた。 (iii) 液晶乱流の物性や液晶トポロジカル欠陥の動力学法則の研究。本年度は、本研究が対象とする液晶乱流が負の粘性という異常物性を示すという最近の報告を受け、それと乱流界面成長の関係を調べるべく研究室既存のレオメーターの顕微鏡化に着手した。さらに、液晶乱流の構成要素であるトポロジカル欠陥の三次元運動の直接計測に成功し、その動力学法則について論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で提案するクローン法の数値検証が順調に進捗した。TASEP大偏差についてのKPZ特有のスケーリング則の検証や初期条件依存性について成果がまとまりつつあり、論文執筆を開始した。クローン法の実験実装については、前年度に引き続き、実験実装の技術的な側面を進めることができた。本年度はまた、液晶乱流系の負粘性についてレオメーター実験の経験を有する研究員を雇用することで、本研究課題にレオロジーとの繋がりを模索する新たな側面を開拓することができた。液晶乱流の構成要素である液晶トポロジカル欠陥についても3次元動力学計測に成功し、そのスケーリング則や対称性について重要な知見を得て論文出版に至った。以上を総合的に考慮して、「おおむね順調に進展している」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの数値的研究により、我々が提案するクローン法がKPZ大偏差の計測に適していることの証拠を得た。特に、KPZ大偏差の特徴的なスケーリング則や初期条件依存性も含めて計測可能であり、TASEPという重要模型について理論的関心の高い量の実測に成功した。そこで次年度は、KPZクラスの3つの代表的初期条件について大偏差の母関数の形状を確定させ、論文として成果発表を目指す。 クローン法の実験実装については、本年度まで準備を行った手法を実験系に実装し、開発アルゴリズムを動作させて、母関数の評価を開始する。本年度までの数値的研究によって、バイアスの強い条件では母関数は比較的単純な挙動をすることが明らかとなっているため、そこから実験検証を始める。結果は本年度までに得たTASEPでの関数形と比較し、KPZ大偏差の普遍性と個別性について考察を行う。また、実験的に実現可能なクローン数、サンプリング数に対して期待値が収束する範囲内で様々なバイアス値で計測を試み、典型ゆらぎとのクロスオーバー部分の計測可能性について評価する。以上の成果をまとめ、報告することを目指す。
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