研究課題/領域番号 |
20H01877
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
吉川 研一 同志社大学, 研究開発推進機構, 客員教授(嘱託研究員) (80110823)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2020年度: 11,960千円 (直接経費: 9,200千円、間接経費: 2,760千円)
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キーワード | DNA高次構造転移 / 人工細胞モデル / ミニ臓器創成 / 生命現象の物理 / 非平衡開放系 |
研究開始時の研究の概要 |
生命体は、これまでに人類が知り得てきた科学技術とは、その動作原理が根本的に異なっている。本研究では、生命体を非平衡開放系における階層的な自律的システムと捉え、実空間上で生命の動作特性を発現する実空間のモデル系を構築し、それにより、「要素還元的な分子論を中核とする生命科学」と、「コンピュータ空間でのモデル化に象徴される数理科学」の学問の流れを統合し、新しい学問の潮流を創出するとともに、医学や工学的な分野への応用展開も併せて図っていくことを目的としている。次のような課題を重点てきに追究する。1)ゲノムDNAの高次構造転移と遺伝子活性、2) 細胞の実空間モデリング、3) 細胞の3次元組織体自己生成。
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研究実績の概要 |
実空間上に単純な実験モデルを構築するとともに、非平衡物理学や非線形科学に立脚した数理モデルと対比しながら、以下の3つの課題を中核に研究を総合的に推進した。 1)ゲノムDNAの高次構造転移と遺伝子活性に関して、溶液中での1分子の動的高次構造観測を中心にして、数百kbp塩基対のサイズの長鎖DNAの折り畳み転移特性についての実験を進めるとともに、高次構造と転写・発現・複製の活性との関連を明らかにすることを目指した。本年度は、DNAの分子鎖のサイズに依存して、遺伝子発現の速度がどのように変化するのかを明らかにし、論文として報告した。 2)細胞の実空間モデリングでは、ゲノムDNAと各種タンパク質、基質を取り込み、外周をリン脂質二分子膜で安定化させた、人工的モデル細胞を生成し、生細胞並みの機能を示すような実験系を創り出す方法論の確立を目指して研究をおこなった。DNAの高次構造に依存して、細胞サイズ液滴環境中での、DNAの局在化にスイッチングが起こることや、高分子水溶液の相分離を細管内で行わせると、安定な細胞サイズ液滴が生成することなどを見出し、論文として報告した。 3)細胞の3次元(3D)組織体自己生成では、上皮系や間葉系の細胞を自己組織的に3次元配列させる実験系を発展させることを目指して研究を推進した。更には、予備実験として、肝臓がんやリンパ腫などの動物組織を対象に、細胞同士の接着特性の変化が、機械的な伸展に対してどのような形態変化として現れるのかを調べる予備実験を、医学畑の研究者との共同研究として行なってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績でも述べたように、以下の3つの主要な研究課題がいずれの順調に進展してきている。1)ゲノムDNAの高次構造転移と遺伝子活性、2) 細胞の実空間モデ リング、3) 細胞の3次元組織体自己生成。 なかでも、DNA分子のサイズに依存して、転写や発現活性が顕著に異なることを明らかにしたことは大きな成果と考えている。具体的には、T7 promotorとluciferase遺伝子を直鎖上のDNAに組み込んだ、1.7k, 4.3k, 25.7k塩基対のDNA分子を作成し、発現効率を比較したところ、25.7kのものは1.7kの1000倍の効率を示すことを見出した。DNA分子の鎖長に依存した高次構造の特質の変化との関連させて、発現効率が大きく変化することの分子論的メカニズムを解明した。 上記の発見に加えて、細胞の実空間モデリングに関しても当初の想定を上回る、大きな成果が得られている。100k塩基対を越える長鎖DNAについて、非凝縮のコイル状態でも細胞サイズ液滴の内部に存在するが、凝縮転移により折り畳まれたDNAでは界面に局在するようになることなどを明らかにしている。これは、細胞の自己組織化の謎にも迫る、新規性の高い研究成果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1)ゲノムDNAの高次構造転移と遺伝子活性、2) 細胞の実空間モデリング、3) 細胞の3次元組織体自己生成。これら3つの課題を中心に、研究を推進していく予定である。今後は、上記の課題を統合するような研究も試みる。特に溶液環境の非特異的なパラメータに依存して、DNAの高次構造や遺伝子発現活性がどのような変化をするのかを明らかにすることを目指したような研究を位置付ける。また、細胞が集合した生体組織について、病変にともなって、その機械的な特性がいかなる変化を示すのかを明らかにする。
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