研究課題/領域番号 |
20H01907
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
青木 保道 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, チームリーダー (20292500)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2021年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2020年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 格子QCD / 相構造 / コロンビアプロット / 3フレーバー / カイラルフェルミオン |
研究開始時の研究の概要 |
これまでの数値計算によれば、宇宙初期のQCDに関わるイベントは相転移ではなくクロスオーバーである。しかし、現実世界を表現するパラメタのごく近くに相転移が必ずある事が理論的に予想されている。この相転移を数値計算で再現するには、カイラル対称性の自発的破れとその回復のメカニズムを正しく扱うことが重要である。本研究ではカイラルフェルミオンを用いた数値計算によりQCD相図の重要なピースを埋めていく。
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研究実績の概要 |
本研究は有限温度QCD相図:コロンビアプロットのうち左下の一次転移とクロスオーバーの相境界が予想される領域(左下四半)の決定を行うことを目的としている。大規模数値計算に用いる格子手法として、カイラルフェルミオンの実用的な定式化である、Domain Wall Fermion (DWF) - メビウス定式化とstout smearing による改良を施したもの - を用いる。 3年目となる今年度は、主に3つの点で進展があった。 第1として、有限温度で用いる格子間隔直上でゼロ温度の計算を実施し、スケール精度が格段に上昇した。これにより、3つ目の基準点は、概算度温 T=120 MeV (虚時間方向の格子点数 Nt=12)、概算転移クォーク質量 m=4 MeV となり、ウィルソンフェルミオンの先行研究による 連続極限での臨界終点の転移温度 T_E=134(3) MeV より低い温度まで探索が進んだことになる。 第2として、同基準点での、二つ目の体積の計算が進捗し、相転移を示すスケーリングではないものの、若干の体積効果が認められ、さらに大きな体積の計算の必要性が分かった事が上げられる。基準点を、より低温小質量側へ追加することは、「富岳」をもってしても現実的では無いことが分かってきた。これにより、これまで我々が扱ってこなかった格子作用への移行を検討し、次なるステップの方向性が定まった。 第3として、近カイラル領域においても効果が懸念される、カイラル対称性のわずかな破れの効果を、DWFの仮想5次元方向の異なる計算を実行する事による検証を進めた。計算途中の現時点では今のところ問題は認められないが、より統計を上げて高精度の検証に繋げていく第一歩となった。このような検証はさらにカイラル極限に近い、深カイラル領域での結果の正当性を判断するための方法論としても整備が求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度想定していた 3つ目の基準点の相転移有無の結論が、若干の体積依存性の発現のために持ち越しとなった。しかし、これまで見られなかったこの現象は、結果的に同基準点がクロスオーバーで相転移であっても臨界終点に近づいていること、もしくは、カイラル極限での2次転移の影響の発現とも考えられ、正しい方向の探索ができていることを示唆している。解決法として、より体積が大きい計算が必要になったことで、大規模数値計算の時間がかかる事になったが、その解決方法の理解も進み、また、格子スケールの精度も格段に向上したことで、次年度以降の深カイラル領域探索に繋がる知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では3フレーバー縮退質量系での臨界終点の決定の後に、非縮退質量方向の情報に延伸するとしていた。これは一次転移領域が存在し、臨界終点がゼロでないクォーク質量にある場合を想定している。現時点で近カイラル極限まで探索のリーチが伸び、複数の体積を用いたスケーリングが進行中であるが、明らかな一次転移の兆候は見つかっていない。 4年目は近カイラル領域の3つめの基準質量点の3つめの大体積計算を実行し、基準点近傍の転移がクロスオーバーか一次転移的であるかを判定することに注力する。また、カイラル対称性のわずかな破れの効果の検証を完了する。併せて、格子カイラルフェルミオン作用の若干の修正により、粗い格子でもカイラル対称性を高度に実現する方法を取り入れて、計算のスピードアップを図る。 9月までで「富岳」の1年プロジェクトが終了するため、引き続き資源獲得に努め、成功した場合には深カイラル領域に踏み込んだ計算 - 4つ目の基準点 - を実行する。一次転移が見つからない場合でも、カイラル極限で二次転移であるモデルとの整合正を質量スケーリングにより議論する。一方、一次転移であれば、クロスオーバーとの相境界の位置を求めるための探索を行い、臨界終点の決定に繋げる。 「富岳」の資源が得られない場合もありうるが、その場合には、探索を計算負荷の低い領域に設定する必要がある。温度が高く、質量が重い領域が対象になるため、その領域を4つ目の基準点として結果を導き、4つの基準点を用いた種々のスケーリングテストから、相構造の情報を最大限引き出す。
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