研究課題/領域番号 |
20H01947
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分16010:天文学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野田 博文 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (50725900)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
15,600千円 (直接経費: 12,000千円、間接経費: 3,600千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2020年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
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キーワード | 活動銀河核 / 超巨大ブラックホール / 精密X線分光 / 多波長モニタ観測 / XRISM / 巨大ブラックホール / 多波長観測 / X線天文学 / X線CCD |
研究開始時の研究の概要 |
巨大ブラックホールのスピン(角運動量)は、X線帯域に現れるFe-Kα輝線の相対論的効果による広がりから測定できるが、これまでは、連続スペクトルの不定性やX線分光性能が十分でないために高信頼度での測定が困難だった。本研究ではこれらの困難を乗り越えるため、X線天文衛星XRISMに搭載されるX線マイクロカロリメータを用いて活動銀河核からのX線を精密分光するとともに、X線衛星と地上望遠鏡を用いて多波長の同時モニタを行い、時間変動解析を駆使することで連続スペクトルを精確に定量化する。これらの手法を組み合わせ、巨大ブラックホールのスピンを高い信頼度で測定することを目標に据える。
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研究実績の概要 |
超巨大ブラックホール(BH)のスピンを反映する、BH近傍の降着円盤内縁部で生じる相対論的に広がったFe-Kα輝線プロファイルを取得するには、BHから比較的遠方に存在する広輝線領域やダストトーラスなどの領域からの非相対論的なFe-Kα輝線や反射成分のスペクトルを精確に見積もり、差し引く必要がある。この目的に向け、「すざく」、Swift、地上望遠鏡による明るい活動銀河核からのX線と可視光の同時観測データを詳細に解析し、非相対論的なFe-Kα輝線と連続放射の強度変動の相関に着目することで、非相対論的なFe-Kα輝線の約半分の強度がBHから~10光日の距離に存在する広輝線領域から、残りの半分がBHからさらに離れたダストトーラスから生じていることを明らかにした。これらの結果から、非相対論的なFe-Kα輝線や反射成分の精密分光データに対するモデル化を進めている。また、投稿論文として出版すると同時に、国内の複数の研究会で報告した。さらに、XRISMと地上望遠鏡を用いた活動銀河核の多波長観測や精密X線分光データの解析について定期的に打ち合わせを行い、検討を進めた。 XRISM衛星にX線マイクロカロリメータとともに搭載するX線CCD検出器(Xtend)は、相対論的に広がったFe-Kα輝線プロファイルを作成する際に差し引く必要がある連続X線スペクトルを決定するのに不可欠である。そこで、Xtendの衛星搭載状態での性能評価試験に参加して貢献すると同時に、冷却試験中に突如発生した、電荷がCCD撮像領域の外部で発生して侵入する事象の原因究明と、軌道上で発生した場合に問題なく観測するための異常対策モードの準備を、CCD実験を駆使して行った。原因究明までは至っていないものの、衛星搭載状態では本事象は発生しないことを確認し、また仮に発生した場合にも対策する方策を確立できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活動銀河核中の超巨大ブラックホール(BH)から比較的遠い広輝線領域やダストトーラスなどの領域からのFe-Kα輝線や反射成分への寄与はこれまでよくわかっていなかったが、当該年度の研究によって強度変動を利用することで高い精度で制限することに成功し、投稿論文として出版することができた。これにより、BH周辺からの非相対論的な反射スペクトルの寄与を精確に見積もることができるようになった。用いたのは「すざく」と複数の地上望遠鏡の同時観測で得られたX線と可視光のデータであり、X線と可視光の双方を利用することで反射成分の起源をより強く制限するための方法が確立できた。この研究は、XRISMと地上望遠鏡による同時観測の良いデモンストレーションとなり、これをベースにXRISMが打ち上がった後、XRISMと地上望遠鏡を組み合わせて活動銀河核を多波長で観測する計画を進めている。 活動銀河核の非相対論的な反射スペクトルに加えて、降着円盤からの黒体放射とコロナから逆コンプトン放射の強度変動の相関を利用することで、連続スペクトル全体を精確にモデル化するための準備も順調に進んでいる。この連続スペクトルの評価に重要なXRISMに搭載するX線CCDカメラの開発では、衛星に搭載した状態で、各種の電気試験や熱真空試験などにおいて良い性能を発揮しており、打ち上げに向けて順調に進んでいる。撮像領域の外部から電荷が侵入する事象についても対策モードを確立することができ、万が一軌道上で発生したとしても、問題なく天体観測を行うための準備は整った。これらのことから、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
X線撮像分光衛星XRISMが2023年度に打ち上げ予定となっているため、射場での検出器の性能評価試験、衛星の打ち上げ、軌道上での検出器の立ち上げ、軌道上運用やキャリブレーションなどに参加することで、本研究に不可欠となる観測性能を引き出せるよう開発に貢献する。並行して、引き続き、XRISM搭載のX線CCDカメラ(Xtend)で発生した、観測に影響が及ぶ可能性がある電荷侵入事象の原因究明を、大阪大学内に立ち上げたCCDシステムでフライト品と同等のCCD素子を駆動することで進めていく。XRISMの打ち上げ後、軌道上で万が一この事象が発生した場合には、当該年度の研究で確立してきた異常対策モードを用いることで、問題なく天体観測を行える予定である。 XRISMの打ち上げ、検出器の立ち上げ後は、6ヶ月間予定されているPerformance Verification期間にX線マイクロカロリメータで観測される活動銀河核のデータの解析に取り組み、広輝線領域やダストトーラスからのFe-Kα輝線をはじめとする微細スペクトル構造の決定を行う。また、XMM-Newton、NuSTAR、Swiftなどの他のX線天文衛星、および京都大学岡山天文台「せいめい」や西はりま天文台「なゆた」などの地上望遠鏡の公募観測に応募し、XRISMと同時に可視光や赤外線で活動銀河核の観測を行う。この時、XRISMの観測時間以外の時間帯も地上望遠鏡でカバーすることによって、連続放射の強度変動をモニタしておく。そして、多波長の同時観測データを、強度変動も考慮しながら解析し、降着円盤およびコロナからの連続放射のスペクトルを精確にモデル化する。このようにして得られた微細スペクトル構造と連続スペクトルを差し引くことで、超巨大ブラックホールのスピンを反映する相対論的に広げられたFe-Kα輝線のプロファイルを決める方針である。
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