研究課題
基盤研究(B)
隕石に最も多く含まれる鉱物であるオリビンには、高密度化という形で母天体である小惑星の衝突履歴が記録されている。しかし、そのプロセスには未だ統一見解がない。本研究では「新たに発見された高圧相であるイプシロン相を経由する無拡散メカニズムにより、オリビンは一瞬で高密度化する」という仮説を立証するため、隕石試料や超高圧実験試料を、高分解能電子顕微鏡法やX線回折法を駆使して解析する。さらに、理論計算により、イプシロン相出現の物理化学条件の予測を行う。得られた結果を統合して、オリビンの高速相転移メカニズムを解明し、天体サイズに依存しない新しい衝撃圧力の指標を提案する。
高温高圧下におけるカンラン石の相転移メカニズムの解明を目的として、2021年度に引き続き、川井型超高圧発生装置によるオリビン(Mg/(Mg+Fe)=0.9)の高圧相転移実験を行った。出発物質にはサンカルロス産オリビン粉末を用いた。試料に一定の差応力が働くよう、オリビンは100ミクロン以下の不均質な粒径分布に荒砕きして試料カプセルに封入し、圧力12GPa、温度900℃で2時間保持後、急冷し減圧した。回収試料は2021年度に行った実験試料と合わせて、微小部X線回折(微小部XRD) 及び透過電子顕微鏡(TEM)を用いて解析した。12, 14, 16 GPa(温度は全て900°C)の相転移実験試料の微小部XRDパターンはそれぞれ、高圧相のワズレアイト、ワズレアイト+リングウッダイト、リングウッダイトが形成されていることを示した。オリビン粒子がその外縁部から相転移し、粒径約0.5-1.5マイクロメートルの高圧相粒子が形成されていることが、TEM観察から明らかとなった。この組織は、上記のオリビンの高圧相転移が核形成と成長のメカニズムにより進行したことを示す。一方、14, 16 GPaでの実験試料中の一部のリングウッダイト粒子の電子線回折パターンは、ポワリエライトの回折スポットも示し、両相はトポタキシャルな結晶方位関係を持つ。この方位関係は、ポワリエライトへの相転移が、原子の長距離拡散を伴わないshear mechanismにより、リングウッダイトの粒内にて進行したことを意味する。また、圧力が高くなるほどポワリエライトが観察されるオリビン高圧相粒子が多くなる傾向があった。
2: おおむね順調に進展している
強い衝撃を受けた隕石試料中にみられるオリビン高圧多形である、ワズレアイト、リングウッダイト粒子中に、新高圧相のポワリエライトを発見した。これらの高圧相の結晶方位関係、また第一原理計算によるエンタルピー計算から、ポワリエライトは高い過剰圧または差応力下で準安定的に形成されることを明らかにした。また、X線構造解析により、ポワリエライトの結晶構造の精密化にも成功し、新鉱物として国際承認が得られた。この天然の産状を再現するために、差応力場でのオリビンの高圧相転移実験を進めているが、この実験は概ね完了し、現在は、回収試料の微小部X線回折による生成相の確認と、透過電子顕微鏡による詳細な微細組織観察のフェーズにある。これらの結果を統合して、ポワリエライトの形成条件を明らかにしつつあり、課題は順調に進んでいると自己評価する。
予定していた高温高圧実験は概ね完了し、今後は回収試料の分析を中心に実験作業を進める。これによりポワリエライトの形成条件を制約し、さらに第一原理計算により差応力場でのエンタルピー計算も行って、制約条件の精度を高める。回収試料の微小部X線回折測定、透過電子顕微鏡はそれぞれ、研究分担者と研究代表者が維持管理している設備を用いているため、今後も遅延なく分析が行える。計算機実験については、担当の研究分担者が海外に渡航中であるが、インターネットの利用により、実験や議論の遂行には全く支障がない。隕石試料についても補足的な観察を行う予定であるが、現有の試料と装置を用いるため、遂行に支障はない。新型コロナの感染状況も落ち着いてきたため、研究分担者との実験や議論はこれまで以上に安定的に行えるものと考える。
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すべて 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 13件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 16件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 10件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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