研究課題
基盤研究(B)
本研究では、数値モデルの雲降水過程の不確実性を低減することを目的に、関東圏ウルトラサイトのリモートセンシング気象観測データを利用した高解像度数値モデルとの連携研究基盤を確立し、地上観測、人工衛星観測、数値モデルを連携するフレームワークを確立する。関東圏には、現業観測に加え、人工衛星検証サイトとして多様なリモセン観測網が配置されており、観測的なウルトラサイトとしての性質を有している。関東圏ウルトラサイト観測データを包括的に利用することにより数値モデルの雲降水過程を検証し、改良を行う。改良した数値モデルで全球シミュレーションを実施することで、観測データのインパクトを評価することが可能になる。
関東圏ウルトラサイトによる観測範囲の領域を対象に、高解像度数値計算を実施し、観測データの利用を通じて数値モデルの検証・改良を行った。領域スケール実験から全球実験までを同一のモデルで計算可能な全球非静力学モデルNICAMを利用するとともに、理化学研究所領域モデルSCALEや気象庁現業局地モデルasucaを利用し、関東圏を対象とした高解像度計算(数km格子間隔以下の雲解像計算等)を実施した。観測データによりNICAM領域実験の結果を比較検証し、雲物理スキームや乱流スキームの検証を進めた。人工衛星観測による数値モデル検証のために開発した「衛星シミュレータ―」による解析手法を用いて、観測データと数値シミュレーション結果との雲降水プロセスについて比較を行った。「衛星シミュレータ―」に偏波レーダーシミュレータ― POLARRISを導入して、地上リモートセンシング観測に適用する改良を行い、これを用いて雲物理過程に焦点をあてた解析を行い、観測との比較を通じて数値モデルの検証を行った。2019年9月房総半島台風事例、2020年4月低気圧通過事例に加えて、2020-2021年の20事例以上を選定し、NICAM、ASUCAを用いて数値シミュレーションを実施した。気象庁二重偏波ドップラー気象レーダーや、ディスドロメータ等の観測データ等を入手・整備した。数値シミュレーションの結果に「衛星シミュレータ―」を適用し、レーダー観測データと比較することにより、局地数値モデルの雲降水過程の評価検証を行った。これらの結果をもとに、局地気象モデルにおける主として雨、霰に関する雲物理過程・境界層乱流過程の評価・改良を行った。改良した局地気象モデルによる数値シミュレーションを実施し、改良の効果を評価した。
2: おおむね順調に進展している
関東圏ウルトラサイトによるの領域を対象に、asuca、NICAMを利用した高解像度数値計算を実施し、観測データの利用による数値モデルの検証・改良を行った。関東圏の現業・研究用のリモートセンシング観測機器のデータとして、気象庁二重偏波ドップラー気象レーダー、情報通信研究機構(小金井市)に設置した雲レーダー等の整備・利用を進めた。また大気海洋研究所屋上に雨粒子計測用のディスドロメータLPMを設置し、自動気象観測装置と連携して、東京レーダー(柏市・気象庁)等との比較観測を行った。2020-2021年に発生した対流雲や前線性の雲降水システム等の14事例抽出し、これらの観測データを整備・解析するとともに、同事例を対象とした数値シミュレーションを行った。asucaによるシミュレーションの初期値と境界値にメソ解析を用い、関東圏を1km格子でシミュレーションを実施した。NICAMのシミュレーションは初期値にERA5を用い、雲微物理を変えた6カテゴリのシングルモーメントスキーム(NSW6)、ダブルモーメントスキーム(NDW6)の二種類を用いた。ストレッチ格子を用いて局所的に解像度を上げた計算を行った。関東域を最小格子間隔1.4 kmの解像度で実行した。どのシミュレーションにおいても、実際に観測された降水システムの総観的な特徴が再現できた。レーダー観測と数値シミュレーションにレーダーとの比較には「衛星シミュレータ―」に導入したPOLARRISを用いた。これにより、数値モデルの雲物理的特徴を定量的に評価することが可能である。数100mメッシュ間隔での数値モデル実験を実施し、ラージエディシミュレーションモデル(LES)として用いるための技術の開発を進めた。観測データと数値モデル実験の比較により、雲物理過程、境界層乱流過程の検証を行った。
今後は、二重偏波ドップラー気象レーダー等による観測データを用いた数値モデルの改良と、改良した数値モデルをデータ同化により予測精度の向上を図る。関東圏における様々な降雨事例について、数値モデルにより高解像度の数値シミュレーションを行い、これらの結果を観測データによって比較検証する。特に、「衛星シミュレータ―」を利用することにより、雲降水過程の再現性の評価を行う。これらの結果をもとに、数値モデルの特に雲物理過程や乱流過程の改良に取り組む。これまで検証に用いた事例に加えて、2020-2023年の降雨事例を選定し、レーダー観測データを整備する。これらの事例のうち代表的な事例について、数値モデルNICAM、asucaによる数値シミュレーションを実施し、観測データと数値モデルの比較検証を行う。関東圏で確立した手法の他地域への拡張をはかるべく、九州・四国域、北陸域等の新たに二重偏波ドップラー気象レーダーに更新された地域において観測データと数値モデルの比較検証を行う。東京大学大気海洋研究所に設置したディスドロメータLPMおよび自動気象観測装置POTEKAの観測データ等を入手・整備する。数値シミュレーションの結果に観測シミュレータ―を適用し、レーダー観測データと比較することにより、数値モデルの雲降水過程の評価検証を行う。これらの結果をもとに、雨、雪、霰に関する雲物理過程や乱流過程の改良を行う。また雹を導入した新たな雲物理スキームを開発する。改良した数値モデルを用いて、データ同化サイクルのもとで一定期間の予測実験を行い、数値モデルの改良の効果を評価する。数100mメッシュ間隔でのラージエディシミュレーションモデル(LES)実験を実施し、雲物理過程・乱流過程の検証・改良を進める。
すべて 2022 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (20件) (うち国際共著 7件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 16件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 13件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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